放射線治療
INDEX
放射線治療では高エネルギーのX線を用いてがん細胞を破壊します。
放射線治療は特定の部位にある腫瘍を標的にするのに用いられます。腫瘍の正確な位置に放射線を照射することで腫瘍を小さくすることを目指しています。腫瘍を切除できる大きさにするために、手術や化学療法の前に放射線治療を行う場合があります。また、手術をせずに放射線治療を行う場合もあります。
放射線治療は、がん細胞のように速く増殖する細胞を破壊または傷つけることで作用します。放射線は照射した部位の細胞だけを傷つけます。放射線は化学療法と異なり、身体全体の細胞を損傷することはありませんが、照射された部位の正常な細胞を傷つける場合があります。しかし、正常な細胞は傷ついても修復(再生)することができます。
放射線治療の安全性
放射線は100 年以上の間、治療に効果的に用いられてきました。この間、放射線治療が安全かつ有効であり続けるために様々な進歩が遂げられました。
患児が放射線治療を受ける前に、放射線治療のチームが安全かつ正確な治療が受けられるように個々の治療計画を立案します。その部位の健康な臓器を避けながら放射線ががんに集中するように慎重に計画されます。適切な治療が確実に行われるようにするため、特殊なコンピューターを用いて放射線治療機器の監視や二重確認を行います。放射線治療の後に身体から放射能が発生するようなことはありません。
放射線治療の実施
放射線治療には、外部照射と内部照射の2つの方法があります。小児がんの多くは外部照射で治療します。
外部照射では、LINAC(リニアックもしくはライナック)と呼ばれる機械から放射線が出ます。放射線でがん細胞(肉眼的に存在するものと、手術や化学療法の後に残存しているかもしれないものの両方)を狙います。放射線は見たり、感じたり、味わったりすることはできません。感知することは全くできないのです。
治療の前には照射野(照射部位)が正確に測定され、身体に印がつけられます。この過程を「シミュレーション」と呼びます。放射線治療が終わるまで印を洗い流さないでください。
副作用を減らすため、治療は通常、月曜日から金曜日までの週5日間で何週間もかけて行います。このようなスケジュールで治療を行うことにより、正常細胞に修復する時間を与えながら、がん細胞を死滅させるのに十分な量の放射線を照射することができます。
放射線治療チーム
放射線治療の期間中は大勢のスタッフに出会います。放射線治療専門医(放射線でがん治療をする専門の医師)がこの放射線治療チームを統率します。
放射線治療専門医: 放射線治療専門医は放射線治療を監督する医師です。放射線科を最初に受診した時に放射線治療専門医に会います。放射線治療専門医は治療中、あらゆる副作用を監視し処置を行います。放射線治療チームの全てのスタッフと協力するのに加えて、患児を担当する他科の医師とも綿密に連携をとります。
放射線治療専門看護師: 放射線治療専門看護師は、放射線治療専門医やその他の治療チームのスタッフ全員と連携して治療にあたります。治療期間中に起こるあらゆることについてお子さんを手助けしてくれます。また、今後起こりうる変化を親御さんとお子さんが乗り切ることができるように援助してくれます。必要なときはいつでも看護師が助けてくれます。
放射線治療専門技師: 放射線治療専門技師は、実際に毎日の放射線照射を行う人たちのことです。 彼らは医師の指示および監督の下、治療を行います。日々の記録を管理し、治療機器が正確に作動するように定期的な検査を行います。治療機器の操作に携わるこの人たちとは毎日のように会うことになります。
医学物理士と線量測定士: 医学物理士と線量測定士は、放射線治療専門医の処方に従った治療の立案に責任を担うスタッフです。コンピューターを使って正常な組織を避けながらがん細胞を破壊するための最適な治療計画を立案します。
その他の医療従事者: 放射線治療の期間中、他にも大勢の医療従事者の協力を受けることでしょう。これらの専門家は治療の間、身体面や精神面でのあらゆる要望に確実に応じてくれます。ソーシャル・ケースワーカーや栄養士、理学療法士などが含まれます。
放射線治療の流れ
放射線治療専門医の診察: お子さんが放射線治療を受ける場合、まずは放射線治療専門医の診察を受けます。放射線治療専門医は治療における放射線の役割を説明し、疑問に答えてくれます。また、治療中にいろいろ手伝ってくれる看護師にもここで会うことができます。
シミュレーション: 最も効果を上げるために放射線は毎回同じ場所に正確に照射しなければなりません。お子さんの身体を計測したり、意図する部位に安全かつ正確に放射線を照射できるように皮膚に印をつけたりすることをシミュレーションといいます。
シミュレーションの際、放射線治療専門医と放射線治療専門技師は、患児を実際の治療時と全く同じ姿勢(位置)でシミュレーション機の台の上に寝かせます。照射部位に応じて固定具を使用する場合もあります。固定具を使用することで、患児は治療期間中の毎日、同じ姿勢(位置)を保つことが可能となります。
治療計画の立案: シミュレーションが終わると、放射線治療専門医とその他のスタッフは治療計画を立てるために過去の検査結果とシミュレーションで得られた情報を確認します。全ての情報を確認した後、医師はどこにどの程度の放射線を照射するかを正確にまとめた治療計画書を書きます。治療計画書が完成すると治療が始まります。シミュレーションの後、治療が始まるまでの期間は治療計画書の内容の複雑さによって異なります。全てのがんを同じ放射線量で治療するわけではないので、医師が治療期間について説明します。治療期間は腫瘍の種類のほか、場合によっては患児の年齢によっても異なります。
治療初日: シミュレーションが終わると、初回治療の前に照射位置を決めるための写真(照射野確認写真)を放射線科で撮影します。これらの写真によって照射しようとしている部位が医師の計画と全く同じであるかどうかを確認します。医師はこれらの写真を初回の放射線照射の前に確認する必要があります。
日々の治療: 固定具を使用する場合は固定具も含めて、放射線治療専門技師が治療時の正確な姿勢(位置)を毎日確定します。正確な位置に寝かせたことが確認できると、放射線治療専門技師は治療室を出て、患児の様子をテレビモニターで監視できるコントロール室に入ります。治療室にはマイクがあるので、患児はいつでも放射線治療専門技師と話をすることができます。患児の気分が悪くなったり不安になったりした場合にはいつでも治療機器を止めることができます。治療は痛くありません。また、放射線には色や味や臭いもありません。レントゲン検査でX線をあてられるのと同じようなものです。治療中、治療機器からはカチッという音やノックのような音、ヒューという音などが聞こえるかもしれませんが問題はありません。
患児は10~30分程度、治療用の台の上に横たわったままになりますが、そのほとんどは位置決めのための時間です。治療は通常、月曜日から金曜日までの週5日間で行い、治療期間はがんの種類によって1週間から10週間まで幅があります。
毎週の状態確認: 放射線治療の期間中、放射線治療専門医や看護師は治療経過をみるために定期的に患児を診察します。こうした診察の時や、治療期間中いつでも良いので、あなたやお子さんが抱いている疑問や心配事があれば伝えましょう。彼らはお子さんに副作用が出ているかどうかを確認し、副作用に対する治療(例えば、薬物療法など)を勧める場合もあります。治療が進むにつれて、治療の効き具合や副作用の状況に応じて主治医が日程や治療計画の内容を変更する場合もあります。
放射線治療チームは他の治療スタッフと患児の状態を定期的に確認しあっています。これによって治療を計画通りに確実に進めていくことができるのです。こうした打ち合わせの際、放射線治療チームのスタッフ全員が治療の進捗状況やその他の全ての懸案事項について話し合っています。
毎週の照射野確認撮影: 治療期間中、放射線は予定された正しい部位に確実に照射される必要があります。1週間に一度、放射線治療専門技師は照射野を撮影し、放射線治療専門医の承認を受けます。これらは初日に撮影したのと同じタイプの写真です。放射線治療を続けるためには、放射線治療専門医がこれらの照合写真を承認しなければなりません。こうした写真を撮影する日は、お子さんは通常よりも数分間長く治療機の台の上にいることになります。これらの写真は、がんに対して放射線治療の効果があったかどうかの判断には使えません。
フォローアップ: 放射線治療の終了後も、順調に回復していることを確認するために、放射線治療専門医は他科の担当医と綿密な連携をとります。
親御さんへのアドバイス
可能であれば、治療内容を知るために、初回治療の前にお子さんと一緒に放射線治療を受ける施設を訪問してください。施設の中には、治療が怖くないように、実際に患児を治療用の台の上に乗せて放射線を体験させるところもあります。
- 可能性のある副作用を含め、放射線治療の計画内容について担当医に再確認しましょう。
- 副作用を防いだり治療したりするために何ができるかを相談しましょう。
- 副作用を調べるために行う検査について理解しておきましょう。
- お子さんに関しては自分が一番よく知っているということを忘れないでください。気付いた変化や気懸かりなことがあれば、どんなことも治療チームに知らせましょう。
放射線治療による副作用
放射線治療による副作用は、がんの治療中に放射線が正常な細胞にも損傷を与えるために発生します。長期的にはこれらの正常細胞は回復しますが、短期的に副作用を引き起こします。副作用は通常、治療開始後の2~3週間目までに生じ、治療が終わった後も数週間続く場合があります。まれに、治療の終了後に重篤な副作用が現れる場合もあります。
治療を受けた部位に関係なく、最もよく起こる副作用は倦怠感です。倦怠感は通常はそれほどひどくないため、日常生活はだいたい普段通りに続けることができます。もう一つよく起こる副作用は血球減少です。広範囲に放射線の照射を受けると血球の生産が減少する場合があります。放射線治療専門医は患児の血球数を監視します。
皮膚の変化も起こりやすく、これは放射線性皮膚炎と呼ばれます。放射線を受けた皮膚は特に注意深く扱ってください。治療を受けた部位の皮膚は日焼けに似て赤く、傷つきやすくなっています。放射線科の看護師は患児の皮膚を手当てするために以下のような特別な指導をしてくれます。
- ぬるま湯と看護師が勧める刺激の少ない石鹸を使って毎日皮膚を清潔にしましょう。
- 医師や看護師の許可がない限り、治療を受けた部位にローションや香水、デオドラント化粧品、パウダーなどを一切使わないようにしましょう。アルコールや香料が含まれた製品も使ってはいけません。
- 治療を受けた皮膚に熱いものや冷たいものを一切当てないようにしましょう。温湿布や氷枕も使ってはいけません。
- 直射日光を避けましょう。屋外で過ごさなければならない時は皮膚を保護するための帽子や衣類を着用すること。また、治療後は紫外線防御指数(SPF)が15以上の日焼け止めを使用すること。
- 放射線が通過した部位にその他の副作用が発生する場合もあります。ただし、これらの副作用は放射線治療を受けた患児全員に起こるわけではありません。副作用の重症度は、照射された線量(処方された放射線治療の回数)によって異なります。
脳へ照射した場合の副作用:
- 耳の痛みや炎症
- 倦怠感
- 脱毛 (頭髪は通常、治療終了後2~4カ月で生えてきますが、色や手触りが違っている場合があります。)
- 軽度の頭痛
- 吐き気や嘔吐 (放射線が脳内の嘔吐中枢を刺激することによって吐き気や嘔吐を引き起こす場合があります。このような症状を防ぐための薬剤を放射線治療の前に投与することができます。)
- 皮膚の変化
頭頚部へ照射した場合の副作用:
胸部へ照射した場合の副作用:
腹部へ照射した場合の副作用:
- 腹部の不快感や痙攣(けいれん)
- 食欲不振
- 倦怠感
- 吐き気や嘔吐 (放射線が脳内の嘔吐中枢を刺激することによって吐き気や嘔吐を引き起こす場合があります。このような症状を防ぐための薬剤を放射線治療の前に投与することができます。)
- 皮膚の変化
骨盤へ照射した場合の副作用:
四肢へ照射した場合の副作用:
放射線治療による長期的な影響
放射線治療の影響を非常に注意深く経過観察しても、細胞の損傷のためにいくつかの長期的な影響(晩期合併症と呼ばれます)が生じる場合があります。これらの晩期合併症は治療が終わってから数年が経過するまでわからない場合もあります。したがって、全ての患者は、がん治療による晩期合併症についてよく理解している医師に生涯にわたって経過を診てもらうことが重要です。
放射線治療によって晩期合併症を発症するリスクには多くの要素が影響します。
- 治療を受けた部位
- 放射線治療の線量
- 治療を受けた時の年齢
下記は放射線治療によって発症する可能性がある晩期合併症の一覧です。個々の副作用についての詳細は、リンク箇所をクリックするか、このウェブサイトの晩期合併症のページを参照してください。
一般的な晩期合併症
脳への照射による晩期合併症
- 成長ホルモンの不足
- 思春期早発症
- 不妊
- 二次性卵巣機能不全
- テストステロン欠乏症
- 生殖機能の問題(女性)
- 生殖機能の問題(男性)
- 中枢性副腎機能不全
- 学習上の問題
- 甲状腺の問題
- 聴覚の問題
- 眼の問題
- 歯の問題