思春期早発症
小児期にがんの治療を受けた人の中には、内分泌(ホルモン)異常をきたす場合があります。これは、内分泌系として知られている、ホルモンを分泌する器官の機能異常によって起こります。
内分泌系とは
内分泌系とは、成長、第2次性徴、活力、尿の生成、ストレス反応などを含む多種多様の身体機能をつかさどる分泌腺のグループのことです。内分泌系には、脳下垂体、視床下部、甲状腺、副腎、膵臓、卵巣(女性)、精巣(男性)があります。視床下部と脳下垂体は内分泌系の他のたくさんの分泌腺を制御しているので「内分泌中枢(マスター腺)」と呼ばれることがあります。残念なことに、小児がんに用いられる治療の中には内分泌系に悪影響を及ぼし、様々な問題を引き起こすものが含まれています。
ホルモンとは
ホルモンとは、内分泌腺から分泌される化学伝達物質で、血液の中に入って身体の細胞に情報を伝えます。内分泌系ではたくさんのホルモン(成長ホルモン、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなど)を生成し、それらが協働することによって特定の身体機能を維持するのです。
思春期が訪れる年齢
思春期は子どもによってやや異なる年齢で訪れます。事実、思春期が最初に始まる年齢には大きな幅があります。思春期が始まるタイミングは個人の遺伝的背景によって影響を受けるので、早い年齢で思春期が始まるのはおそらく家族内に共通する傾向でしょう。
女児の場合、乳房や恥毛の発育は通常10~11歳位で始まりますが、8~13歳位は正常範囲です。月経は通常12~13歳位で始まりますが、より早くまたはより遅く始まったとしても正常な範囲内です。
男児では、精巣と恥毛の発育が通常、11~12歳位で起こりますが、9~14歳位は正常範囲です。
思春期早発症とは
思春期早発症は、思春期の徴候(恥毛や乳房の発育)が正常範囲よりも幼い年齢で始まることです。思春期の早発は、正常より早い時期に性徴が現れ、急速に骨を成長させますが、最終的には低身長になる可能性があります。女児は8歳以前に性徴を発現した場合、男児は9歳以前に性徴を発現した場合に思春期早発症と診断するというのがほとんどの医師の間で一致する意見です。
思春期早発症のリスク要因
小児がんの治療に関連するリスク要因は次の通りです。
- 以下の部位を含む、頭部や脳への放射線治療(特に18グレイ以上の照射)
- 頭蓋(全脳)
- 全脳全脊髄
- 上咽頭(鼻と喉)
- 中咽頭(口と喉)
- 眼窩
- 眼
- 耳
- 側頭下部(頬骨の後ろの顔面中央部)
- 全身放射線照射(TBI)
(※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。) - 女性
- 低年齢での治療歴
思春期の早発は、体重過多の子どもにより多く見受けられます。体重過多はがん治療と関係がある場合と関係ない場合があります。
思春期早発症の原因
視床下部と脳下垂体が正常よりも早い時期に卵巣(女児の場合)や精巣(男児の場合)に指令を送り、女性ホルモンや男性ホルモンを作らせてしまうことが一つの原因です。別の原因として、卵巣、精巣または副腎皮質の異常によって思春期の徴候が早く生じることもあります。思春期早発症の原因が脳にあるのか身体の他の部位にあるのかを調べるためにいくつかの検査が行われます。
異常を見分けるには
小児がん経験者は誰でも、少なくとも年1回、身長と体重の測定と思春期の発達具合の診察を含めた健康診断を受けるべきです。
小児がん経験者に前述したリスク要因のうちのいずれかがある場合や、速すぎる成長や思春期早発の徴候がみられる場合には、以下のような検査が推奨されます。
- FSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)と性ホルモン(エストラジオールまたはテストステロン)の血中濃度を測定するための血液検査
- 骨年齢を測定するためのX線検査(骨の発達年齢と成熟度を測るためのX線検査)
思春期早発症の治療方法
問題がみつかった場合には、内分泌専門医(ホルモン異常を専門とする医師)に紹介されます。一時的に思春期の進行を止め、骨の成熟の速度を抑えるような薬物療法が行われます。思春期があまりにも早く始まったことに対する精神的な影響について診察し管理することも大切です。思春期早発症の子どもは外見上成熟しているように見えますが、思考、感情、行動などは彼らの実際の年齢相応のものです。
Debra Eshelman [RN, MSN, CPNP] Children’s Medical Center of Dallas and Southwestern Medical Center