中枢性副腎機能不全
小児期にがんの治療を受けた人の中には、内分泌(ホルモン)異常をきたす場合があります。これは、内分泌系として知られている、ホルモンを分泌する器官の機能異常によって起こります。
内分泌系とは
内分泌系とは成長、第二次性徴、活力、尿の生成、ストレス反応などを含む多種多様な身体機能をつかさどる分泌腺のグループのことです。内分泌系には脳下垂体、視床下部、甲状腺、副腎、膵臓、卵巣(女性)、精巣(男性)があります。視床下部と脳下垂体は内分泌系の他のたくさんの分泌腺を制御しているので「内分泌中枢(マスター腺)」と呼ばれることがあります。残念なことですが、小児がんに用いられる治療の中には内分泌系に悪影響を及ぼし、様々な問題を引き起こすものが含まれています。
ホルモンとは
ホルモンとは、内分泌腺から分泌される化学伝達物質で、血液の中に入って身体の細胞に情報を伝えます。内分泌系ではたくさんのホルモン(成長ホルモン、性ホルモン、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなど)を生成し、それらが協働することによって特定の身体機能を維持するのです。
中枢性副腎機能不全は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)として知られる下垂体ホルモンの欠乏によって起こります。副腎皮質(腎臓の上極に位置します)は、ACTHによって刺激され、コルチゾールと呼ばれるホルモンを生成、分泌します。もしも脳下垂体が十分なACTHを生成できなければ、副腎皮質でコルチゾールを生成、分泌することができません。コルチゾールは、血糖を正常値に保ち、発熱やけがなどの身体ストレスに対する反応を助ける働きがあり、健康維持のためにとても重要なホルモンです。
中枢性副腎機能不全のリスク要因
- 以下の部位への照射も含めた、脳への30グレイ以上の放射線治療
- 頭蓋(全脳照射)
- 脳脊髄(全脳全脊髄照射)
- 上咽頭(鼻および喉)
- 中咽頭(口および喉)
- 眼窩(※訳注:「がんか」と読み、眼球が入っている頭蓋骨のくぼみのことです。)
- 眼
- 耳
- 側頭下部(頬骨の後ろの顔面中央部)
- 全身照射(TBI)
(※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。) - 下垂体の外科手術
中枢性副腎機能不全の症状と検査
全く症状がないか、あっても、疲れや衰弱、食欲不振、めまいなどの軽い症状です。しかし、発熱や感染、けがや手術時などのストレスがある時にはより重症となり、嘔吐、下痢、低血糖、脱水などの症状をきたすことがあります。
異常を見分けるために
脳の中心部分(視床下部-下垂体軸)に30グレイ以上の放射線治療を受けた場合、または、中枢性副腎機能不全をうかがわせる症状がある人は、コルチゾール濃度を測定するために血液検査を受けるべきです。この検査は、がんの治療が終了した後(通常は治療終了後2年以内に)、最低1回は受けるべきです。
この検査は、通常は朝一番に行われます。というのも、体内のコルチゾール濃度は一日のうちに変化し、早朝の値が最も高いからです。朝のコルチゾール濃度が異常であれば、担当医が内分泌専門医(ホルモン異常を専門とする医師)に紹介してくれます。内分泌専門医は、診断のためにさらに詳しい検査を行うことになります。
中枢性副腎機能不全の治療
中枢性副腎機能不全は、毎日定期的に内服する「ハイドロコーチゾン」という薬剤で治療します。病気や外科手術のようにストレスが多くなる時にはハイドロコーチゾンが増量され、必要な場合には注射で投与されることもあります。中枢性副腎機能不全と診断されたら、事故や急病に備えて、医療措置に関する注意事項を記したブレスレットを付けておくべきです。そうすれば、救急救命スタッフが必要とされる特殊な処置を行うことができます。
D. Eshelman [RN, MSN, CPNP], W. Landier, [RN, MSN, CPNP, CPON]