急性リンパ性白血病(ALL)の治療
INDEX
白血病と診断が確定すると、治療計画の概要について説明が行われます。治療は、患児の状態と白血病の種類に基づいて決まります。治療を決める要素は以下の通りです。
- 診断時の年齢: 診断時に1歳未満または10歳以上の患児は、治癒のためにより積極的な治療が必要です。
- 診断時における白血球数: 白血球数が50,000以上の患児は、より積極的な治療が必要です。
- 白血病の病型: 急性リンパ性白血病にはいくつかの種類があります。「B前駆細胞性」の白血病が最も多く、「T細胞性」はあまりありません。
- 中枢神経系白血病であるか否か: 診断時に脳脊髄液にも白血病細胞があった患児は、より積極的な治療が必要です。
- 精巣への白血病の浸潤の有無: 男児の1~2%は、診断の時点で精巣に白血病細胞が存在しています。これは精巣を調べることで診断できます。一部のケースでは生検が必要です。通常、精巣から白血病細胞がみつかった患児に対してはより強い治療が行われ、放射線治療が必要な場合もあります。
- 白血病細胞における染色体の変化の有無: がん細胞には、しばしば染色体上の遺伝子変異があります。それは、患児の体内の白血球に突然変異が起こり、染色体に異常が生じたことを意味します。ALLの少なくとも90%にこのような異常があり、治療の選択に影響を及ぼします。
- 治療への反応性: 第一選択の治療に対する反応が鈍い場合には、より積極的な治療が必要です。治療に対する反応性は、かつては治療開始から1ヶ月目に何度も骨髄を採取し、その中の白血病細胞の割合を計算して判断していました。現在は、ほとんどの患者から治療開始1ヶ月目に骨髄(時として血液)を採取し、その標本で微小残存病変(MRD)検査を行っています。このMRD検査は10,000個から100,000個の正常細胞の中にたった1つだけでも白血病細胞を検出することができます。MRD検査の結果によって治療法が変わる場合もあります。
治療の種類
ALLは血液のがんなので、その治療は計画的に行われます。血液のがんということは、全身に治療の影響が及ぶことを意味しています。診断が確定すると、治療チームは治療を行うために中心静脈ラインを留置します。
化学療法が治療の中心です。
1.寛解導入療法: 通常、治療の第一段階は4週間続きます。 患児は、内服か静注(静脈への注入)か髄注(脳脊髄液内への注入)によって3~4種類の抗がん剤を投与されます。 抗がん剤の組み合わせは、前述の要素により決まります。この段階における治療目標は、白血病細胞を破壊し、正常な血球が戻るようにすることです。
この治療段階の最後に、治療の効果を判定するための骨髄穿刺を行います。顕微鏡で骨髄標本を調べると、当然、正常細胞だけが見つかることが予想されますが、この状態を「寛解(かんかい)」と呼びます。寛解は完全に治癒したことを意味しません。場合によっては追加治療を行う必要があります。しかし寛解は回復へと向かう過程における非常に重要な第一歩です。ALLの患児100人のうち約98人は治療開始から1ヶ月目の終わり頃に寛解に入ります。その場合でも微小残存病変(MRD)検査などが行われる場合があります。これは顕微鏡で白血病細胞を探すよりも精度の高い検査です。
2.持続療法: 第二段階の治療は12~16週間持きます。寛解導入療法の間に使用したのとは別の抗がん剤が内服および静注で投与されます。
持続療法の目的は、寛解導入療法で抗がん剤を投与した後も残っているかもしれない白血病細胞を破壊することです。もう一つの目的は、中枢神経で白血病細胞が増殖するのを防ぐこと(中枢神経系白血病の予防)です。この目的を達成するために髄腔内化学療法(脳脊髄液への抗がん剤の直接注入)を行う腰椎穿刺(脊髄穿刺)が毎週行われます。特定の種類の白血病と、診断時に白血病細胞が脳脊髄液内にも存在していた場合には、この段階で脳と脊髄に対する放射線治療を行います。持続療法においては、多くの場合、抗がん剤メトトレキサートによる治療を行います。メトトレキサートは、診療所などでも治療可能な低用量で投与される場合と、数日間の入院を必要とするような高用量で投与される場合の両方があります。
3.強化療法: この8週間に及ぶ治療では、寛解導入療法や持続療法において投与されたのと同じような抗がん剤が用いられます。強化療法は白血病の再発を防ぐのに有効であることが明らかになりました。投薬のタイミングと使う薬剤の種類は、患児ごとの病気の特性によって決まります。
4.維持療法: この最終段階の治療は2~3年間続きます。 維持療法はそれまでの治療に比べるとはるかに穏やかなものなので、ほとんどの場合、家庭における抗がん剤の内服で済みます。間欠的な静注または髄注による化学療法が行われる場合もあります。
脳への放射線治療: ALLの治療に使われる抗がん剤の大部分は、脳や脳脊髄液にあまりよく入っていきません。そのため、これらの部位に浸潤している白血病細胞を破壊するためには特別な治療法を用いなければなりません。ALLの患児は全員、腰椎穿刺(脊髄穿刺)をしながら脳脊髄液中に抗がん剤を投与する髄腔内化学療法を受けます。場合によっては脳への放射線治療も行われます。放射線治療は通常、週5日間の治療を約2週間にわたって行います。
精巣への放射線治療: ほとんどの場合、診断時に精巣内に存在していた白血病細胞は治療の最初の1ヶ月で消え去りますが、寛解導入療法が終わる時点で白血病細胞が精巣内にまだ存在している場合は、精巣への放射線治療が必要です。放射線治療は通常、週5日間の治療を約2週間にわたって行います。
手術: 一般的にALLの場合には手術による治療は行いませんが、中心静脈ラインを留置したり生検を行ったりするために手術が必要になることはあるかもしれません。
分子標的治療: 特定の種類のALLには、新しい化学療法である分子標的治療が開発されています。現在は「フィラデルフィア染色体陽性ALL」と呼ばれる稀な種類のALLに主に適用されています。将来はこのような治療法がより多くの種類のALLに対して利用可能となるかもしれません。
骨髄(幹細胞)移植: 小児ALLにおいて最初の診断時に骨髄(幹細胞)移植が行われるのは稀です。この治療は、再発したALLを治療する際に多く行われます。
臨床研究(臨床試験)
米国では、がんの患児の大部分が臨床研究(臨床試験)に参加しています。このような参加率の高さは小児がんの治癒率を改善するのに不可欠です。 研究者は、治療法を改善し、かつ、がんの性格とその原因について理解を深めるために様々な研究を計画します。臨床試験は慎重に審査され、誰でも登録できるようになる前に正式な科学的手順を経て承認されなければなりません。登録中の臨床試験で、お子さんに“適格性がある”場合には、参加するように依頼されるかもしれません。複数の研究に参加するように依頼されることもあります。
特定の研究への適格性があるかどうかは、年齢、がんの部位、病気の広がりやその他の情報によって判断されます。通常、科学的に有効な研究を行うために研究者は研究対象者が的確かどうか厳密に調べなければなりません。さらに研究者は研究の間、厳密に同じ制約に従わなければなりません。
患児に複数の研究(臨床試験)への適格性がある場合、主治医はそのことについてインフォームド・コンセントのための面談(カンファランスと呼びます)を開いて親御さんと話し合います。親御さんがお子さんを研究に参加させたいと思っているか否かに関係なく、主治医は参加することによる潜在的なリスクや、親御さんが決断するために必要なその他の情報について説明してくれます。研究に参加するかどうかをいつでも選択することができます。
お子さんを研究に参加させることを選んだ場合、主治医はその研究の結果からどのような情報を得ることができるのかを説明します。研究の最終的な結果は、一般の方および他の研究者に知らせるために公表されます。どのような研究においても個人が特定されるような情報は公表されません。
様々な種類の研究について詳しく知るためには、このウェブサイトの臨床研究(臨床試験)の項目を参照してください。
米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月