胚細胞腫瘍の診断

INDEX

「胚細胞」は英語で“germ cell”と言い、“germinate(発芽)”のように生命を与えることを意味します。(※訳注:英語では“germs”に「細菌」という全く別の意味もありますが、これは無関係です。)胚細胞は新たな生命を生む特殊な細胞、すなわちヒトの生殖に不可欠な精(子)細胞や卵細胞といった生殖細胞へと成熟することからこの名称がつきました。 胚細胞腫瘍は幼児期、思春期、成人期のいずれにも発生する腫瘍です。胚細胞腫瘍は希少な腫瘍で、子どもと20歳未満の若年者をあわせても全米で毎年診断されるのは約900人です。この年齢層で発生するがん全体のわずか4%にすぎません。

胚細胞腫瘍が発生する部位は主に生殖腺(生殖器官)ですが、この腫瘍は以下のような体内の様々な部位にも発生します。

  • 精巣(男児・少年)
  • 卵巣(女児・少女)
  • 腹部および骨盤内
  • 縦隔(胸骨と脊柱の間の胸腔)

胚細胞(※訳注:胚細胞は最初の時期は始原胚細胞と呼びます)は胎生初期に出現します。胎生約4週で始原胚細胞は最初の出現部位から性腺まで移動します。胚細胞は全身を巡りますが、必ずしも全てが目的の部位に到達できるわけではないので、細胞が行き着いた場所のどこにでも胚細胞腫瘍が発生する可能性があります。胚細胞腫瘍には悪性のもの(生命の危険がある)と良性のもの(生命の危険がない)があります。

悪性の胚細胞腫瘍: 未熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌などの数種類のがんがあります。精巣または卵巣を破壊したり、体内の別の部位に転移したりする可能性があります。

良性の胚細胞腫瘍: 奇形腫などがあります。奇形腫とは、体毛、筋肉、骨など複数の組織を含む腫瘍です。悪性腫瘍ほど治療が難しくはありませんが、大きさによっては問題を引き起こします。新生児であっても、かなり大きい腫瘍がみられる場合があります。

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胚細胞腫瘍の症状

胚細胞腫瘍の徴候や症状は腫瘍の発生部位によって異なります。

  • 精巣の胚細胞腫瘍: 一般的には陰嚢(精巣を覆う皮膚)の痛みのない腫瘤として発見されるので、幼少の男児の場合は親御さんが気付くことが最も多いようです。親とそのような個人的な問題について話をしたがらない10代の少年の場合、精巣腫瘍の発見は遅れがちです。
  • 卵巣および腹部の胚細胞腫瘍: 最初は腹痛や便秘があることがあります。腫瘍が大きくなるにつれて、腹部の腫瘤として現れてきます。
  • 縦隔の胚細胞腫瘍: この腫瘍は胸骨と脊柱の間の胸腔で発生するので、非常に大きくなるまで症状がありません。大きくなれば、胸痛、息切れおよび喘鳴を引き起こします。
  • 仙尾骨の奇形腫: この腫瘍は肛門のまわりに突き出た腫瘤として見つかり、通常は新生児の時に診断されて切除されます。腫瘍が骨ではなくその周囲にできる場合もあり、その場合は長い間気付かれないまま大きくなって悪性化してしまっていることがあります。こうした場合には便秘、尿閉および痛みを引き起こします。

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胚細胞腫瘍の診断

受診歴の確認と身体検査に加えて、下記のような胚細胞腫瘍を診断するための検査が行われます。

  • 血液検査: 血液生化学検査、全血球数、遺伝子検査、および胚細胞腫瘍によって産生されるAFP(アルファ・フェトプロテイン)やbhCG(ベータ・ヒト絨毛性ゴナドトロピン)などの腫瘍マーカーと呼ばれる特定のタンパク質の数値を調べるために採血が必要です。
  • 生検: 腫瘍細胞の種類や病気の進行度を診断するために、腫瘍を切除して組織標本を顕微鏡下で診断(病理組織学的診断)します。
  • 画像検査: 腫瘍やその周囲の構造の鮮明な写真を撮るために下記のようないくつかの方法があります。
  • CT検査
  • MRI検査
  • X線検査
  • 超音波(エコー)検査

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病期分類

胚細胞腫瘍と診断した後、医師は病気がどれくらい進んでいるのかを判定する必要があります。その判定は腫瘍の病期分類と呼ばれます。腫瘍の病期分類を行なうために医師は腫瘍の大きさ、転移しているかどうか、リンパ節や他の組織に浸潤しているかどうかを知る必要があります。

胚細胞腫瘍は著しく変化する場合があり、また、体内の異なる部位において発生するため、病期分類は難しい作業です。しかしながら、米国小児がん研究グループ(Children’s Oncology Group、略称:COG)では、胚細胞腫瘍の病期分類を行なうために次のようなシステムを開発しました。

COG胚細胞腫瘍病期分類システム

  • 病期Ⅰ: 腫瘍を完全に切除することができ、腫瘍マーカー値が正常な状態。
  • 病期Ⅱ: 手術の後、顕微鏡で確認できるような小さな腫瘍がまだ残っており、手術後に腫瘍マーカー値が正常に戻らない状態。
  • 病期Ⅲ: 初期治療の後、肉眼的に確認できる腫瘍が残っており、リンパ節に浸潤がある。
  • 病期Ⅳ: 腫瘍が原発部位から身体の離れた別部位まで広がっている状態(※訳注:転移のこと)。

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胚細胞腫瘍の原因

胚細胞腫瘍の正確な発生原因は完全には解明されていませんが、この腫瘍は発育途上の胎児において通常ならば性腺(生殖腺)へと移動するはずの細胞が正しい位置に到着できなかった場合に発生するようです。一部の胚細胞腫瘍は、体細胞に余分な遺伝子や正常な数を越える染色体を持っている子どもに発生します。発症リスクとして確実にわかっていることはごくわずかです。

発生率と民族性

米国における20歳未満の東欧系白人の少年は、アフリカ系の少年と比較すると、精巣に胚細胞腫瘍を発症するリスクが約7倍も高い傾向があります。

女性の場合には、卵巣や他部位の胚細胞腫瘍の発症リスクは東欧系もアフリカ系も同程度です。

停留精巣

生まれつき停留精巣だった男児は精巣の胚細胞腫瘍を発症するリスクが高いです。片方の精巣だけが下がっている場合でも両方の精巣の発症リスクが高くなります。停留精巣は医学的には潜在精巣症とも呼ばれます。

米国版の更新時期: 2011年9月
日本版の更新時期: 2012年3月

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