がん治療とゲノム医療
がん治療とゲノム医療
がんはゲノムにさまざまな変異が生じて発症します。正常な細胞から変化したがん細胞の遺伝子はそれぞれ異なります。がんの進行や病状、治療薬への反応、副作用の重さも人によって異なるというところに、治療の難しさがあります。
がんゲノム医療は、標準治療が無いか、終えているなどの条件を満たした場合に行われます。そして、がん遺伝子パネル検査(以下、パネル検査)で一度に多数の遺伝子を調べ、見つかった遺伝子変異に効果が期待できる治療薬があれば、その臨床試験への参加を検討します。
パネル検査により、その患者さんの「設計図」である遺伝子を隅々まで調べて、がん細胞の特徴を見つけられるようになりました。現在では、全国でがんゲノム医療を受けることができるよう、がんゲノム医療中核拠点病院(12ヶ所)、がんゲノム医療拠点病院(33ヶ所)、がんゲノム医療連携病院(180ヶ所)が指定されています(2021年2月現在)。パネル検査による患者さんのゲノム情報は、ひとりひとりに適切な治療薬、治療法、参加可能な臨床試験や治験につながる可能性があるのです。
一方で、「時間がかかる」という問題があります。パネル検査の後は、拠点病院に置かれているゲノム医療専門家会議(エキスパートパネル)によって抗がん剤が選択されますが、『検査→エキスパートパネル→主治医→治療薬に到達』まで、時に数ヶ月かかる場合もあります。
さらに、「パネル検査後にすべてが何らかの治療に結びつくというわけではない」ことも理解しておく必要があります。例えば、その遺伝子変異に対応する治療薬が無い、日本国内では販売が承認されていない、その患者さんのがん種への適応が認められていない、ということもあります。患者さんに適応する臨床試験や治験が無い、という場合もあります。がんの種類にもよりますが、今のところは治療薬への到達率は10%前後と言われています。
乳がんや大腸がんなど、一部のがん種についてはオーダーメイド医療につながる研究が進んでいます。しかし、遺伝子ごとの治療の特徴や効果的な治療薬などのすべてが分かっているわけではありません。新たな治療法につなげるには、より多くのゲノム情報を研究する必要があります。
小児がんとゲノム医療
小児がんについては、残念ながらまだ開発の途中、というのが現状です。まず、症例数が少ないことから十分な解析ができず、臨床試験や治験が困難だという背景があります。また、現在承認されているパネル検査は主におとなのがんを対象としており、小児がんの検査にはまだ不向きな点があるからです。
小児がんや希少がんは、もともと診断が難しく、標準治療が確立していないものも多くあります。一方、おとなの場合は標準治療が優先されます。そこで、発症年代を踏まえ、AYA世代のがんについては診断時にパネル検査の活用を検討できるようになりました。
徐々にではありますが、海外でも小児がん領域のゲノム医療に関する臨床試験が進められています。
国内でも小児がん専用ゲノム検査の開発が始まっており、将来的には保険適用となることが期待されます。
【参考】
国立がんセンター中央病院『がんゲノム医療』
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/genome/index.html
国立成育医療研究センター『小児がんとゲノム医療』
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/cancer/cancer_genome.html
National Cancer Institute『Pediatric MATCH Study Finds More Targetable Genetic Changes than Expected』
https://www.cancer.gov/news-events/cancer-currents-blog/2019/pediatric-match-targetable-genetic-changes