「通常の生活」に戻る

治療を終えたばかりの患児の親御さんは、がんの診断前と同じような生活には絶対に戻れないだろうと感じているので、「治療後に通常の生活に戻る」という考え方そのものが少し違うと思われることでしょう。しかしながら、治療が終わったら学校・仕事・社会生活などのこれまで休んでいた活動に復帰して、日常生活を取り戻さなければならないということが親御さんにはわかっていらっしゃるはずです。以下は、治療終了へ向かっているこの時期に、多くの親御さんが特に注意を要する事柄です。

親御さんは仕事への、お子さんは学校への復帰時期を決めましょう

  • 小児がん経験者であるお子さんは、具合がよくなったと思えばすぐにでも学校に戻りたがりますが、同時に自分がどう見られるのか、体育の授業やその他のスポーツに参加できるのか、勉強についていけるのか、周りの生徒たちは自分の病気についてどんなことを知っているのか、クラスメートの質問にはどう答えればよいか、などの不安を感じているかもしれません。
  • 問題が起きたときにお子さんが対処しやすいように、あらかじめ治療チームのソーシャルワーカーとお子さんを交えて話し合っておくとよいでしょう。
  • 米国では、治療スタッフや心理的・社会的サポートをしてくれるスタッフ(※訳注:ソーシャルワーカーなど)が復学の前にあらかじめ学校を訪問することがあり、これが小児がん経験者たちに大変好評です。このようなスタッフが教室を訪問することで、クラスメートたちはいろいろな質問ができ、お子さんがどのような経験をしてきたか、どうすれば仲良く過ごせるかを良く理解できるようになります。
  • 仕事に復帰する予定の親御さんは、お子さんががんにかかって治療を受けているというストレスがあることを理解しながらも、それが出来るだけ少なくて済むように願っておられることでしょう。
  • しかし、気持ちに関係なく、経済的な事情ですぐにでもフルタイムの仕事に復帰しなければならない親御さんもいらっしゃるかもしれません。ストレスを少なくする意味からも、仕事復帰が親御さんご自身や他のご家族に与える影響について、治療チームのソーシャルワーカーに相談しておくとよいでしょう。家族の生活を支えるために利用できる経済的支援制度があるかどうかを相談することも重要なことの一つです。

お子さんが通常の活動に復帰する際の活動量・疲労度・細菌との接触・安全については神経質になりすぎないようにしましょう

  • 子どもを危険な目にあわせたくないという気持ちから、むしろ慎重になりすぎてしまう傾向があります。親御さんにとってこの問題を判断するのは非常に難しいことに違いありません。
  • さまざまな判断をしなければならない場面で、親が主導権を握ることは徐々に控えていく必要があります。特にお子さんが思春期の場合には、普通の親としての感覚を取り戻すために非常に重要なことです。
  • 危険を避けることと過保護にならないことのバランスをうまく保つことが大事で、お子さんも親御さんもいろいろな試行錯誤を経なければなりません。治療スタッフや心理的・社会的なサポートの担当スタッフと相談することで、うまく乗り越えていきましょう(どのように親の過干渉を控えていくかについて相談にのってくれます)。

医療機関で過ごす時間が少なくなるのに伴い、家族内の役割やスケジュールを変更しましょう

  • 受診の時間が減るので、親御さんや兄弟姉妹が家庭内の元の役割分担に戻るのはある意味簡単なことと言えます。しかし、必要に迫られて一次的に別の役割を果たしていた人は、その役割から離れることに複雑な思いを持つこともあります。家族内での役割分担については改めて話し合いましょう。
  • その話し合いの時には、全員が不満や要望をはっきりと口に出せるように、誰が何をすべきかを自由に話し合うと良いでしょう。そうすれば全員の希望にそった役割分担を決めることができます。

がんになる前からの“問題”に気付いた場合は、もう一度よく考えましょう

  • 多くの親御さんは、わが子ががんと診断されて経験した衝撃や危機的な状況が、いかに自分たちの人生に新しい意味をもたらしたか、たとえば小さな問題は許容できるようになったとか、物事の優先順位がはっきりした、などとよく言います。
  • しかしながら、積極的な治療が行われなくなると最初の衝撃が薄れ、それまでは忘れていた生活上の小さな問題が再び浮かび上がり、そのことに時間や気を取られるようになります。
  • 以前からあった問題を見直す時には、治療中に学んだ”物事の優先順位”をもう一度思い起こして臨めば新たな解決策が生まれてくることでしょう。
  • 他の小児がん経験者の家族といろいろな場面(家族会の集まりや受診先の医療機関など)で話し合うことは、孤独感の解消と将来への見通しを持ち続けるのに役立ちます。

小児がんの治療チームとの関係の変化について

  • がんの治療が終わった時に、治療中にはいつもこまやかな配慮をたくさん示してくれた治療チームとの関係に微妙な変化が生じることは、多くの患児やそのご家族が感じています。
  • 積極的な治療の必要がなくなって受診の回数が減ってくると、治療チームから見放されたように不安に感じてしまうことがあるかもしれません。
  • 治療チームにそのような意図がないことも、自分たちが治療チームから受けていた配慮が新たにがんと診断された家族にとって必要であることも充分理解しているのですが、治療チームと微妙な距離ができてしまうことはご家族にとって感情的に受け入れがたいのです。
  • ソーシャルワーカー、臨床心理士、セラピストなどは、このような距離を埋めるために治療チームとのつながりを引き続き感じさせてくれる存在です。精神的な不安が生じた時には、遠慮なく相談しましょう。
  • 相談したくても、親御さんの側からは連絡を取りづらいと感じるかもしれません。これは、治療チームのメンバーが忙しいせいだけではなく、親御さん自身が、現在治療中の患児の親御さんの心配事に比べれば、自分たちの心配事や要望は相談するほどの大事ではないと思っているからです。
  • 受診している医療機関にがんの治療後のためのプログラムがある場合は、治療終了に向かっているこの時期だけでなく、将来にわたってこのような不安の解消に役立ちます。

患児および他の兄弟姉妹との関係の変化としつけにおける変化

  • お子さんが治療を終えた時に、親御さんが次に感じるのは親子間や兄弟姉妹間の関係の変化でしょう。
  • がんの診断が下されると、患児であるお子さんに対しても、その兄弟姉妹であるお子さんに対しても、これまでと同じように何かを我慢をさせたり、しつけをしたりすることが難しいと感じる親御さんが多いようです。
  • お子さんを失ってしまうかもしれないという恐れや、苦痛や不快感を伴う治療を何度も受けさせなければならないことへの不安感から、それまで行ってきたしつけや要求の基準をずいぶんゆるめてしまうことがあります。病気になったお子さんをできる限り気遣い、喜ばせてあげたいためかもしれません
  • 同様に、面倒を見てあげられないことや患児の治療中にいろいろと無理をさせていることへの罪悪感から、兄弟姉妹に対しても我慢を強いることが難しくなります。
  • お子さんが治療を終えると、親御さんは「元のルール」に戻さなければならないと頭で理解はしていますが、再発への不安が常につきまとっているため、心情的には実行するのが難しいと感じるかもしれません。
  • 治療中もある程度のしつけを続け、治療後に「元のルール」に戻すことに成功した親御さんは、次のように言っています。
    「子どもを愛するということは、欲しがる物を何でも与えて、がっかりさせないようにすることではなく、むしろ子どもが嫌がっても怒っても、その子にとって最善のことをするためにこれまでの人生で得てきた知識を生かすことです。」
  • このような親御さんは、短期的な楽しみだけでなく長期的な目標を考えてしつけを行うことで、普通の人と同じような寿命を生きることを期待しているという基本的なメッセージを患児に対して送っているのだとも言っています。お子さんはこのメッセージを感じ取って、自分たちの親は何が最善なのかをわかってくれていると知って安心します。
  • サポートグループで話し合うことで、どのように「元のルール」に戻せばよいかを学んだり、またそれがうまくいかない場合の気持ちを共感し合ったりすることができます。この時期の親御さんにとっては安堵をもたらし、新たなことに気づかせてくれる場となるでしょう。

親戚や友人との関係の変化

  • 治療を終えると、親戚や昔からの友人、そして治療期間中に新しくできた友人などとの関係に変化が起こるかもしれません。
  • 家族や友人の中で、長期にわたる治療期間中も絶えず連絡を取り合っていた人たちは誰か、そして理由が何であれ、疎遠になってしまった人たちは誰か、親御さんもお子さんも同じようにわかっていることでしょう。
  • 一番支えてくれる家族や友人でさえ、治療終了に向かっていくこの時期の大変さを理解することは難しく、親御さんが経験する新たな不安を聞いてくれる相談相手にはならないかもしれません。
  • 親御さんと他のお子さん、そして小児がん経験者であるお子さん自身が「新たな日常生活」を築こうと必死に努力している一方で、周りの親戚や友人たちはすぐにそれぞれの日常生活に戻ることができます。このことを快く思えなかったり距離を感じたりすることがあるかもしれません。
  • 治療後は、治療期間中にできた新しい友達とのつき合いを続けることが物理的に難しくなりがちです。他の誰かの病状悪化の知らせを聞いてしまうのではないかという不安から、連絡を取るのがためらわれる場合もあるかもしれません。
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