日常生活へ
退院から1か月
通院治療になると、外来担当医の受け持ちとなり、投薬やフォローアップの予約も徐々に間隔を開ける移行期に入ります。一方で、血球数が正常に戻るまで数週間、免疫系が回復するまで数か月かかることが多く、すぐに変化が現れることはほとんどありません。この移行期に戸惑いを感じる家族もいます。
《よくある質問》
- Q:水ぼうそう(水疱)や帯状疱疹、感染症が心配です。
- A:水痘帯状疱疹ウイルスの予防注射や、なってしまった場合は内服薬があります。主治医と相談しましょう。
- Q:通院はどれくらいの頻度ですか?
- A:患児にもよりますが、一般的には、最初の1年間は月1回程度の通院になります。
- Q:退院のお祝いをするのは差し支えはありますか?
- A:患児と家族は治療という偉業を成し遂げたのですから、お祝いをすることはとてもよいことです。パーティーを計画したり、「休みの日の計画を立てると前向きな気持ちになる」という家族もいます。
- Q:お祝いする気持ちになれなくてもいいですか?
- A:退院を祝いたい親もいますが、患児の将来が心配で慎重になる親もいます。
このような気持ちの場合、パーティーなどを計画するのは、もう少し待った方がよいかもしれません。家族は大きな困難を乗り越えました。この頑張りを振り返る時間があってもよいかもしれません。
患児と家族が望むことをするのが「正解」です。
退院から2~6か月後
生活環境の変化を感じるようになります。入院中は、患児と家族は定期的に医療者や他の家族と会います。彼らは心強い情報源でした。しかし、退院後は、このような接触が少なくなります。親は、自分の理解者から離れてしまったことに気づくこともあります。患児が10代であれば、多くのともだちから見離されたと感じるかもしれません。新たなステップに進むこの時期に、プレッシャーや恐怖を理解してくれる人を見つけるのは、容易ではありません。
そこで、周囲に説明をして気持ちを理解してもらったり、メールやオンラインで他の患児の親と連絡をとったり、親の会をつくる人もいます。
《よくある質問》
- Q:体育の授業や、水泳などに参加できますか?
- A:手術による切開部が治癒していれば、通常、水泳に関する制限はありません。運動は健康のために重要であり、活動できない身体的な理由がない限り、適度な運動をお勧めします。
ただし、持久力と体力が完全に回復するまでには時間がかかります。どの程度の運動が適切かは主治医に確認しましょう。 - Q:毛髪の再生は?
- A:脱毛は、患児が受けた化学療法薬や放射線療法の副作用のひとつです。通常、毛髪は治療が終了すると再び生えてきますが、その毛髪の色や質感が治療前とはわずかに異なる場合があります。脳腫瘍の治療に用いられるような高線量の放射線を小児が受けると、場合によっては、照射部位で毛髪が再生しなくなることがあります。
質問や心配事がある場合は主治医に相談しましょう。 - Q:「病院に行く」ということが不安です。
- A:健康診断であっても、病院に戻るのがストレスになることがあります。親の中には、「予約日が近づくにつれて不安が増し、終われば病気のことをしばらく忘れられるようになる」と言う人もいます。
また、「患児が動揺するので病院に行きたくない」という親もいます。病院へ行くことは、長期生存だけではなく、患児が自分の健康管理を行えるようにするという上でも重要なことです。患児の様子を見守り、落ち着いて、患児の不安を取り除いてあげましょう。
他のストレスもあります。他の治療中の患児に会うことで、入院中のわが子の辛い姿を思い出すかもしれません。また、同じ時期に入院していた他の患児のことを知る場合もあります。よくない知らせであれば、悲しい思いになります。わが子と重ね合わせてしまい、恐怖を感じることもあります。
同じ病気でも、病気はそれぞれ個人差があることを常に覚えておきましょう。 - Q:再発が心配です。
- A:多くの親が、「退院すると、頼る所が無くなるような気がする」と言います。入院中であれば、出来る限りのことが行われていると実感するからです。再発しないことが保証されるのであれば、低用量で化学療法を続けてもらいたいと考える親もいます。
なぜ退院なのか、主治医とよく話し合いましょう。 - Q:体重がもどりません。
- A:治療が、患児の栄養や食事に影響することがあります。ステロイド薬で治療した場合、塩分過多の食べ物を欲しがったり、体重が増える可能性があります。また、口内炎や吐き気などの副作用のある治療を受けた場合は、体重が減少したり、特定の食品を避けたり、食事自体が嫌いになることがあります。いろいろな味や食感を体験し始めたばかりの乳幼児に、特に多くみられます。
まず、徐々に、健康的で正常な食事に戻ることが目標です。すべての食品群のさまざまな食品を毎日摂取できるようにしましょう。患児が低体重であれば、高カロリーの栄養食品を食べてもらいたいと考えますが、それは控えましょう。病院の栄養士などに、食事の提案やメニューの計画を一緒に考えてもらいましょう。
もちろん、家族みんなで食べることが何より大切です! - Q:ビタミン剤や一般用医薬品はどうですか?
- A:ビタミン剤はよい食習慣の代わりにはなりません。牛乳などの特定の食品群を摂取できない場合や、ビタミンDなどの栄養素の濃度が低ければ処方されることがあります。
また、医療者の中には、マルチビタミン剤を推奨している人もいます。市販薬、生薬、補完療法や代替療法など、いろいろありますが、患児に与える前に主治医に相談しましょう。
退院から6~12か月
《よくある質問》
- Q:発熱、病気がみられますが大丈夫でしょうか?
- A:発熱や、患児の様子が非常に悪い場合は、主治医か最寄りの小児科医を受診しましょう。
喉の痛みや頭痛は一般的な病気が原因かもしれません。しかし、心配しないでいるのは難しいですね。患児の親にとって、症状をみて「一般的な小児の病気か」を客観的に把握することは簡単ではありません。
患児に次のような状態がある場合、主治医に連絡しましょう。- 37.5度を超える発熱が長時間続く
- 原因不明の挫傷
- 早朝に繰り返す頭痛や嘔吐
- リンパ腺の腫大
- 行動、集中力、精神状態の変化
- 原因不明の腕や脚の筋力低下
- 排便や排尿の習慣の変化
- 夜間に目を覚ますような痛み
- Q:活動に制限はありますか?
- A:小児の場合、一般的には、できるだけ早く通常の活動に戻るように勧められます。しかし、病気や治療の影響が続き、以前のようにはいかない場合もあります。患児の治療によっては活動制限があるかもしれません。
患児それぞれの具体的な制限については、主治医と相談しましょう。
退院から1年以降
血球数や免疫システムが徐々に回復し、髪の毛も増えてきます。もう治療をしなくてもよい、という患児もいるかもしれません。受けた治療の効果が続いているからです。
《通院》 診断の予約日の間隔が空くようになりますが、がん再発の徴候がないか、経過観察は続きます。血球数を調べ、スキャンを受けるなどの検査があります。そして、患児を健康な状態に戻すことが焦点になります。患児の具体的なフォローアップ計画について、主治医に相談しましょう。
2~5年後、患児のケアは長期フォローアップ外来に移行することがあります。
《患児にがんのことを話す》 患児が幼ければ、治療のことを覚えていない場合がほとんどです。「患児のためには、病気の情報を共有しなくてもよいのでは」と考えることもあるでしょう。しかし、成長に伴い、病気や治療について必要な情報が増えていきます。「元気になっても、なぜ診察が必要なのか」を患児が理解するためにも、隠さずに情報を共有することは大切です。
《復学、学習について》 学習時に起こる問題は、治療が終了しても何年も現れないことがあります。主治医、患児の学校の職員やスクールカウンセラーなどの専門家と相談しておくとよいでしょう。
脳や脊髄へのがんの広がりを抑制し、予防するための治療は、記憶力や学習能力に影響を及ぼす可能性があります。患児がこのような治療を受けた場合は、担任や他の学校職員、スクールカウンセラーなどに知らせましょう。脳は非常に複雑な構造をしており、幼少期、青年期、青年期を通して成長し、発達し続けます。実際に、親や教師から、「中枢神経系への治療を受けた患児は、集中力に問題があるかもしれない」という報告もあります。学習時の長所と短所を特定するために、神経心理学検査もサポートに役立つ場合もあります。
学校では、小児がんの患児を担当した経験がある職員がいるとも限りません。復学後に学習上に問題があるようであれば、がんの小児を扱った経験のある心理士に相談することも検討しましょう。
学習時に問題が起こる原因と考えられること
・がんの診断を受ける前に学習の問題を抱えていた
・頻繁、または長期間、学校を休む
・聴覚や視力に影響を与える治療を受けた
・行動制限が必要な治療を受けた
・脳および脊髄の治療(放射線療法または髄腔化学療法を含む)を受けた
《体重》 病気や治療による食欲や活動への影響は、患児によって異なります。ほとんどの患児は治療が終わると体重が増え始めます。しかし、不自然なペースで体重が増加する患児や、まったく体重が増えない患児もいます。体重や栄養状態に問題があると感じたら、主治医や栄養士に相談しましょう。
患児にとって、健康的な食事と運動はとても大切です。
・損傷した組織や臓器の治癒を助け、体力を回復させる
・ストレスを減らす
・成人期に、特定の種類のがんやその他の疾患の発症リスクを低減させる
《屋外での活動》 曇りの日でも日焼けには気を付けましょう。
・日焼け防止の衣服や日焼け止め(SPF35以上)を使用する
・砂、雪、水中、アスファルト、高地は、日焼けのリスクを高めるため、十分に肌を保護する
・日差しが最も強くなる午前10時から午後2時の間は、屋外活動を避ける
・外出中は数時間ごとに日焼け止めを塗り直す
《骨髄・末梢血管細胞移植を受けていたら》 移植を受けた患児の場合は、回復の仕方が多少異なります。これは、移植後、免疫力が完全に回復するまでに時間がかかることがあるからです。
回復までの期間の違いは、以下の条件によって、患児ごとに異なります。
・移植を受けたタイプ(例えば、ドナーが家族や血縁関係のないドナーの場合など)
・新しい骨髄が機能し始めるまでの時間
・免疫力抑制の薬を服用する必要があるか否か
・移植片対宿主病(臓器移植に伴う合併症)を経験しているかどうか
また、骨髄移植の準備の一環として全身照射を受けた場合、治療が終了するまで副作用が明らかにならないことがあります。強い治療で回復期間も長いことから、移植チームによる長期間のケアが必要になるかも知れません。患児が通常の活動に戻れる時期や、長期フォローアップについては、主治医に説明してもらいましょう。