亡くなった直後に
患児の家族は患児が病気になって亡くなるまで、肉体的にも精神的にもつらい日々を送ります。涙があふれ、何も感じなくなり、自分の気持ちをどう表現すればよいか分からなくなる場合があります。「我が子をずっと抱きしめていたい」「病院から逃げ出したい」「患児の最期の場所なので病室を離れたくない」など、さまざまな思いが表れます。このような反応は当たり前のことです。
怒り、悲しみ、罪悪感、苦しみから解放された安心感など、自分でも予期しない感情が、家族それぞれ違うタイミングで出てきます。感情的になる家族や、感情を抑え込む家族もいます。感じ方や表現方法に、正しいとか誤りだということはありません。家族は、お互いに慰め合うことがとても重要です。
周囲の人たちが、「遺族のサポートをしたいが、どうすればよいか分からない」という時には、何をして欲しいのかを伝えるとよいでしょう。例えば、「しばらくの間そっとしておいて欲しい」「葬儀やお別れの会の準備を手伝って欲しい」「自分の気持ちを、ただ聞いて欲しい」などかもしれません。親戚や友人に、「患児が亡くなったことを他の人たちに知らせて欲しい」と頼む親もいます。周囲の人たちに知らせることで、彼らが患児のことを気にかけてくれたことへの感謝の気持ちを表すことにもなるからです。
サポートの申し出に対して、家族の希望通りであれば、その善意を受けましょう。希望と異なる場合には、感謝を伝えた上で、今は大丈夫であること、若しくは、別のことを頼みたい旨を伝えるとよいでしょう。
患児のきょうだいは米国では、「forgotten grievers(忘れられた悲嘆者)」と呼ばれることがあります。親は、葬儀の手配、親族や友人への連絡などに忙殺されるうち、きょうだいのことを忘れがちになります。そうすると、深い悲しみに暮れて、きょうだいは自分の世界に引きこもることがあります。そのため、それまで同様に、何が起きているかを説明し、安心させる必要があるのです。
きょうだいが十代であれば、「友人のところへ行きたい」と言うかもしれません。これは無関心ということではなく、きょうだいにとっては友人がこの状況を切り抜けるサポートをしてくれる存在だからなのです。親の友人が親をサポートするのと同じです。きょうだいもできるだけ多くのことに関わった方がよいのですが、彼らが躊躇する場合にはその気持ちを尊重しましょう。
きょうだいが幼い場合、死が永遠の別れであることが理解できません。周囲が悲しんでいれば、彼らも同じように悲しみを覚えます。ですが、幼いこどもの注意持続時間は短いので、すぐに遊びたがったり、いつも通りの活動に戻りたがるでしょう。周囲で恐ろしい出来事が起きていても、親など身近な人たちと普段通りの生活をすることで、自分は安全で愛されていると感じて、安心することができます。
「きょうだいを葬儀に出席させるべきか?」という問いについても、「これは正しい」「あれは間違い」という明確な答えはありません。昨今では多くの人が、「患児が亡くなった悲しみを理解できるので、葬儀に出席するのは重要である」と考えています。また、後になってから葬儀に出なかったことを後悔するきょうだいもいますので、一部分だけでも参加できるよう調整してもよいでしょう。
3~4歳のこどもであれば、ある程度の準備をすれば葬儀に参加することができます。しかし、儀式の間、家族といることが難しい場合や、じっと座っていられない時や感情的になった場合、誰かに付き添ってもらう必要があります。
おそらく最善の答えは、「葬儀に参加する機会を与えること」でしょう。まずは話をして、きょうだいの率直な気持ちを受け入れましょう。
患児の祖父母は孫を失い、そして自身のこどもである親が我が子を失う、という二重の悲しみを経験します。しかし、祖父母には、家族全体の苦しみを和らげるという重要な役割があります。葬儀の準備や患児のきょうだいのサポートに、彼らの力を借りましょう。祖父母自身の気持ちが許すならば、亡くなった患児のきょうだいのサポートの適任者だからです。
親の友人は親愛と尊敬でつながっています。だからこそ、「友人やその家族に何かをしてあげたい」と思うのです。親の友人も、亡くなった患児との心の絆があるのです。親に感情的、物理的に余裕が無ければ、患児のきょうだいのサポートを頼める人たちでもあります。
また、親しい友人に限らず、周囲にいる人たちは孤独感をやわらげるというサポートができます。患児の学校の教師は、クラスメイトに何が起きたかを説明し、みんなで患児とのことを想ったり、残されたきょうだいのサポートを考えたりします。例えば、想い出の花壇づくりやチャリティー活動など、亡くなった患児のことを心にとどめる方法も考えてくれるでしょう。
周りからの「何かしたい」という気持ちに対して、どれがベストか決めるとなると重荷に感じるかもしれません。そのような時には、友人の誰かに頼んで、しばらく経ってから自分と一緒に話し合ってもらえるようにするとよいでしょう。そうすれば、周りの人が色々考えている間、親自身と家族は今の心のケアに集中することができます。
日本語版更新:2020年5月