「終末期ケア」とは
患児が「がん」と診断されてからずっと、親、家族やそのともだち、治療チームは、常に治癒を目指してずっと努力を続けます。しかし、残念ながら、時には治癒が困難で、生命を維持することも非常に難しい場合があります。そのような立場に置かれることほど親にとって恐ろしいことはありません。「こどもをただ生き続けさせたいという親の願いは、身勝手だろうか」「こどもを手放せるのだろうか」「こどもが死んだら、生きていけるだろうか」と思うことでしょう。
多くの親は、「がんとの闘いをあきらめることはできない」と言います。患児が勇気をもって病気に立ち向かっているのに、裏切りになると思うからです。治癒を目指して治療や延命措置を継続するか、治療を止めて終末期ケア(ターミナルケア)を選ぶか。その選択には心が引き裂かれる思いになります。終末期ケアの選択は、患児ができるだけ安心して過ごせるようにすると同時に、命がもう長くはないと知ることにもなります。
この困難な決断を下すためには、親が培ってきた患児についての知識と、患児自身がどのように考えて感じているかを知ることがとても重要になります。 親と一緒に決断できる患児もいるかも知れません。年長児になれば、自分に必要なことや望みを表現できるかも知れません。親も一緒に難しい話をしてくれると知れば、患児自ら、「あまり長くは頑張れない」と伝えることもできるでしょう。間接的に、「本当は、自分のベッドで全部の人形を置いて眠りたい」とか、「ブラッキー(飼っている犬の名前)と散歩に行きたい」というような表現もあれば、「パパ、ママ、とても疲れちゃった。もうこれ以上は頑張りたくない。苦しすぎる」など直接的な場合もあります。患児がもっと幼い場合(乳幼児であっても)、 親はこどもがどう感じているのか、傷ついているか、抱きしめられたいだけなのかを察知することができます。というのも、親はこどもが生まれる前から「互いに話をしてきた」からです。
親が「患児の勇気を裏切ることになるから、がんとの闘いをあきらめない」と思うように、多くの患児は「親の期待を裏切ることになるから、闘いを止めることはできない」と感じています。あるいは、きょうだい、祖父母、ともだちを失望させるとも思います。患児は家族全員が治癒を望み、祈り続けてきたことも分かっています。もう闘わなくていいと言ってもらえるまで、がんと闘うことがたった一つの選択肢だと感じているのです。
患児にとっては、「あきらめ」ではなく、「病気が治療よりも強い」と理解することができます。治らない病気と知っていても、「治らない」と認識するのはとても難しいことです。がんが治ることを願って、患児がどれだけ我慢をして、頑張ってきたかを褒めてあげましょう。そして、患児と一緒にいた全ての瞬間をありがたく思っていることを話しましょう。
最も有効とされる治療でも治癒が望めない場合には、患児が苦痛から解放されて、安心して心が落ち着く環境で過ごせるよう望んでも良いのです。
親は誰よりも患児のことをよく知っています。その絆は他の誰のものとも違います。患児とは一緒に、多くの決定をしてきました。治癒を目指し、頑張って治療を続ける価値が十分にあるかどうか-この重要な決断は、親が自分の心に長時間向き合うようなものです。患児を注意深く観察し、発する言葉に耳を傾ければ、患児の喜び、悲しみ、心の傷、体力、疲労などが分かります。
ですが、治癒に向けた治療を行うべき時期なのか、それとも苦痛を軽減させる「対症療法」に切り替えるべきなのかを判断するのは簡単ではないことが多く、親も患児も最善の答えが分からない場合もあります。そのような時には、「何がいいのか分からない」と患児に伝えて、一緒に相談しましょう。
その前に、患児の治療がどれだけ大変だったかを親はよく理解して評価していること、そして患児の決定を支持することを、患児自身にきちんと知らせることがとても重要です。
患児が高学年や10代であれば、治療を続けるか否かを選択した場合の結果を理解することができます。そして、「治癒に向けた治療を受けない」ということは、死を意味することを理解できます。
患児が幼い場合や、発達障害、昏睡状態にある場合は、通常の方法では自分の希望を伝えることができません。しかし、彼らの活力や疲労の度合いを親がどう感じるか、これは対症療法に集中する時期かどうかを判断するのに役立ちます。対症療法を決断するということは、親が患児の人生で行ってきた保護的なこととは正反対に思えるかもしれません。しかし、実際には、この決断は患児を育み、保護し続けるための方法なのです。時に、努力しても治癒が見込めない場合、それを受け入れることで最高のケアとなることもあります。保護者かつ味方としてなすべきことは、愛情に満ちた家族やともだちに囲まれて、患児が快適に過ごせるようにすることです。
引きとめるか旅立たせるか、という決断の時が来ることを誰も望みません。しかし、もしも直面しているのであれば、一歩を踏み出すためのサポートをする人達-緩和ケアの専門チーム-がいることを忘れないでください。