神経芽腫の診断
INDEX
神経芽腫は、交感神経系の未分化な細胞に生じる固形腫瘍です。交感神経は内臓をコントロールしています。神経芽腫を構成している細胞を交感神経芽細胞と呼びます。神経芽腫の過半数(65%)は両方の腎臓の上にある副腎で発生しますが、身体のどの部位からでも発生します。その他の好発部位は、胸部、頚部、骨盤です。神経芽腫は、診断時に体内の1箇所だけに見つかる場合もありますが、原発部位からリンパ節、骨髄あるいは骨まで広がっている(転移している)場合もあります。
神経芽腫は、交感神経芽細胞(交感神経系の未分化な細胞)が正常な交換神経節細胞へと分化成熟できなかった時に発症すると考えられています。交換神経芽細胞が通常のコントロールを失って増殖と分裂を繰り返し、がん細胞の塊である腫瘍を形成します。
研究によって、腫瘍化の原因となる細胞分裂時の異常や、神経芽腫細胞のDNAに生じる「突然変異」が明らかになりつつあります。そもそもこうした突然変異がなぜ起こるのかはまだわかっていません。神経芽腫やその他の小児がんは、偶然生じる突然変異や細胞分裂中に起こる異常によって引き起こされると信じられています。
神経芽腫の症状
全ての患児に共通する症状はありません。正確に言えば、症状は腫瘍の発生部位と関係があります。神経芽腫の好発部位は、腹部、頚部、胸部などです。より一般的な症状は以下の通りです。
- 腫瘍が腹部に存在する場合は、腹部膨満感、痛み、便秘あるいは排尿困難
- 首に小さな塊やこぶ状のものができると、左右同じ側の顔面に眼瞼下垂、瞳孔の縮小、発汗欠如を伴う場合があります
- 骨の痛み
- 病気が骨髄へ浸潤している場合は、倦怠感
- 出血および内出血(紫斑)
- 発熱
それほど頻繁ではありませんが、神経芽腫細胞によって放出されたホルモンによって下記のような症状が引き起こされる場合もあります。
- 高血圧
- 頻脈
- 持続性の下痢
神経芽腫の診断
がん細胞があるかどうか、体内のどこにあるかを確かめるために、多くの処置や検査が行われます。診断に用いられる検査の正確な組み合わせは、存在する症状や疑わしいがんの種類によって決まります。
X線検査は患児のかかりつけ医によって何度も行われますが、同じ検査は専門医によってもまた繰り返されます。神経芽腫の疑いがある場合は、特に小児がんを取り扱った経験が豊富な治療チームから診断と治療を受けることが重要です。
- 画像検査では腫瘍の位置や大きさを特定するため、身体の内部の写真を撮影します。このような情報を得るために行う検査はいろいろあり、それらの中から主治医は病気の進行度に関する情報を一番多く得られる検査を選択します。よく行われる検査は下記の通りです。
- 超音波(エコー)検査
- CT検査
- X線検査
- MRI検査
- 骨スキャン(骨シンチグラフィー)
- MIBG検査
- 神経芽腫の約90%の症例で、腫瘍細胞が高レベルのホルモンを産生します。これらのホルモンは体内でHVA(ホモバリニン酸)とVMA(バニリルマンデル酸)と呼ばれる物質へと分解され、尿から体外に放出されます。これらの物質を検出するためには尿検査を受ける必要があります。HVAとVMAの数値が高かった場合、治療チームは、患児の病気と治療への反応の経過を追跡するためにその後も尿検査を行います。尿検査は神経芽腫の再発の徴候がないかを監視するために、後々まで行われます。
- 全血球数(CBC)は、骨髄において腫瘍が増殖したことに起因する血球数の低下が起きていないかどうかを確認するために行われます。腎機能および肝機能をチェックするために何種類かの臨床検査が行われます。
- 腫瘍が存在するのであれば、神経芽腫の診断を確定し、かつ最良の治療計画を立てるために病理標本が必要となります。医師は部分的な切除(生検)または腫瘍全体を取り除く手術を行ないます。どちらの方法にするのかは腫瘍の大きさと位置に基づいて決まります。手術の後、切除された腫瘍は病理医によって診断され、さらに特別な検査(※訳注:神経芽腫の予後などを判定するための遺伝子検査)へと送られます。治療チームは腫瘍の正確な種類とその腫瘍が持つ特性を明らかにします。これらの因子は患児に対する最良の治療を決定する際に非常に重要だからです。
- 患児の一部は、診断されるまでに神経芽腫が骨髄へも広がっています。骨髄まで広がっていないかどうかの診断のために、治療チームは両方の腰骨で骨髄穿刺と骨髄生検を行ないます。
治療方針の決定と再発のリスク
腫瘍の存在範囲を明らかにし、腫瘍細胞の生物学的所見や特性を知るための検査が行われた後、その結果を集計して治療後に再発する可能性が判定されます。神経芽腫は、低リスク群、中間リスク群、高リスク群に分類されます。神経芽腫では、診断がついた時点での状態ばかりではなく、腫瘍細胞の生物学的所見によって予後が判定されます。再発リスクを左右する要因は以下の通りです。
- 診断時における患児の年齢:18ヶ月未満の患児の多くは「低リスク群」または「中間リスク群」で、これらの患児はあまり再発しません。
- 病期(進行度):病期分類は、原発腫瘍の増殖範囲と転移が存在する部位で決まります。神経芽腫の国際病期分類(INSS)によって分類されています。
- 腫瘍が身体の正中部位(背骨の周辺)に発生し、脊椎に交差する形で身体の両側に発育しており、手術で切除することができない状態です。その領域のリンパ節には腫瘍細胞が存在する場合と存在しない場合があります。
- 腫瘍は身体の片側に限局していますが、反対側にも腫瘍細胞を含むリンパ節腫大(リンパ節転移)があります
- 患児の年齢が12か月未満です。
- 原発腫瘍は局所的で、転移がある場合は皮膚、リンパ節、肝臓にのみ存在します。非常に少量の腫瘍細胞が骨髄で見つかるかもしれませんが、骨(皮質)には転移がありません。
- 腫瘍の病理学的診断:病理学的診断とは、腫瘍の性格を顕微鏡で診断することです。病理医は腫瘍細胞を診て、それが未熟な神経芽腫なのか、そうではなく、より成熟した神経節芽腫または神経節腫と呼ばれる悪性度の低い腫瘍なのかどうかを決定します。
- MYCN遺伝子の状態:MCYNは、神経芽細胞を含むいくつかの細胞の成長の調節に関わる遺伝子です。腫瘍細胞内の遺伝子のコピーの数を決定するために腫瘍細胞を調べます。MYCN遺伝子が単一のコピー(増幅なし)だと正常です。MYCN遺伝子が複数のコピー(増幅あり)だと、より悪性度の高い腫瘍です。
- DNAインデックス:腫瘍細胞(の核)にあるDNAの倍数性が正常細胞と比較されます。正常な細胞のDNAインデックスは1です。DNAインデックスが1を超えると、より良い予後が期待できます。
- 染色体:神経芽腫の腫瘍細胞では、染色体のある種の異常が明らかになってきています。それらの存在はリスク分類を決定する際に役立ちます。
病期Ⅰ | 腫瘍が局所に限られており、手術によって完全に切除することができます。近くにあるリンパ節には腫瘍細胞が存在しません。 |
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病期ⅡA | 局所に限られた腫瘍ですが、完全に切除することができません。近くにあるリンパ節には腫瘍細胞が存在しません。 |
病期ⅡB | 手術で完全に切除できるかできないかに関わらず、腫瘍は局所に限られています。近くのリンパ節には腫瘍細胞が存在しますが、身体の反対側にあるリンパ節には腫瘍細胞が存在していません。 |
病期Ⅲ | 下記のうちいずれか1つに該当する場合
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病期Ⅳ | 腫瘍が原発部位から離れたリンパ節、骨、骨髄、肝臓、皮膚やその他の器官に広がっています。 |
病期Ⅳ-S | 特別な基準に当てはまる事例で、「S」とは「特別な(Special)」という意味を表わしています。 これらの腫瘍は、治療をしなくても自ずと消える(自然退縮)ことが多いという点で独特です。 |
低リスク群、中間リスク群、高リスク群の治療の間には大きな違いがあるので、再発リスクを理解することが重要です。一般に、高リスク群の神経芽腫は再発しやすいので、低リスク群や中間リスク群よりも強い治療が必要となります。高リスク群のために選ばれる、より強力な治療は、患児にとって効果があることがわかってきています。しかしながら、それにはより多くの副作用があります。したがって、リスクの判断(リスク分類)は、適切な治療を決定する上で大切なことです。
神経芽腫の専門医による国際的なチームは、治療による効果や副作用と、治療が成功しないリスクとの関連性を調査し、数十年にわたって検討して現在の治療計画を作り上げてきました。主治医が必要な検査をすべて終えて、リスク分類が決まったら、そのリスク群の治療に専念してください。
再発リスク群
低リスク群
- 全年齢におけるステージⅠ(完全に切除可能)の症例
- MYCN遺伝子の増幅がなく、かつ50%を超える腫瘍を手術で取り除くことができた病期Ⅱの症例
- MYCN遺伝子の増幅がなく、DNAインデックスが1を超える、予後良好な病理組織学的所見を有する病期Ⅳ-Sの症例
米国では、低リスク群の患児が病気を克服できる可能性は約95%です。
中間リスク群
- MYCN遺伝子の増幅はないが、腫瘍の50%未満しか取り除くことができなかった病期Ⅱの症例 ・淞黴患児が18ヶ月未満で、かつMYCN遺伝子の増幅がない、病期Ⅲの症例
- MYCN遺伝子の増幅がなく、予後良好な病理学的所見を有する、18ヶ月以上の患児における病期Ⅲの症例
- MYCN遺伝子の増幅がない、12ヶ月未満の患児における病期Ⅳの症例
- MYCN遺伝子の増幅がなく、予後良好の病理学的所見を有し、かつ、DNAインデックスが1を超えている12ヶ月以上18ヶ月未満の患児における病期Ⅳの症例
米国では、中間リスク群の患児が病気を克服できる可能性は90%以上です。
高リスク群
- MYCN遺伝子の増幅がある病期Ⅱ、Ⅲ、ⅣまたはⅣ-Sの症例
- 予後不良の病理学的所見を有する18ヶ月以上の患児における病期Ⅲの症例
- MYCN遺伝子には増幅がないが、予後不良の病理学的所見を有するか、またはDNAインデックスが1の12ヶ月以上18か月未満の患児における病期Ⅳの症例
- 18ヶ月以上の患児における病期Ⅳの症例
米国では、高リスク群の患児が病気を克服できる可能性は40%程度です。
米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月