神経芽腫の治療
INDEX
低リスク群
低リスク群として分類された患児には、以下のような腫瘍があります。
- 1つの領域(原発部位)に限局している
- ほとんどあるいは完全に手術で取り除くことができる
- 腫瘍が広がったり再発したりすることがない
- 腫瘍を取り除く手術だけで十分なことが多い
化学療法と放射線治療が必要かどうかは治療チームが判断します。
乳幼児では、状況によっては治療をせずに腫瘍の進行具合を十分に監視するだけという判断がなされる場合があります。腫瘍が自然に退行したり消失したりすることがあるので、腫瘍切除術に伴う潜在的なリスクを冒す必要がないのです。
主治医は、病気の経過を追うために予定表に血液検査、尿検査および画像検査を入れるように指示します。低リスク群の腫瘍が再発するか大きくなり始めた場合、主治医は手術か化学療法、またはその両方を行う治療を薦めます。
中間リスク群
中間リスク群として分類された患児には、以下のような腫瘍があります。
- 手術で完全に取り除くことが困難
- 腫瘍細胞の性格(※訳注:病理所見、MYNC、染色体倍数、DNAインデックスなど)が様々である場合
- 腫瘍が他の器官を圧迫して症状が出ている場合
このグループでは、手術で取り除きやすいように腫瘍を小さくするために、あまり強くない化学療法が最初に行われます。神経芽腫に効くと知られている抗がん剤を組み合わせて、3週間のサイクルで投与されます。放射線治療は、中間リスク群においては一般的に使用されません。
化学療法を数サイクル行うたびに、その効果を判定するために画像検査、骨髄穿刺、血液検査、尿検査が行なわれます。これらの診断結果に基づいて次の治療が決まります。化学療法のサイクル数は、腫瘍が治療に反応して縮小する適度によって異なります。治療が終わる時、主治医は再発の徴候がないことを確認するための定期検査(CT検査、MRI検査、MIBG検査、骨髄穿刺、血液検査、尿検査など)を計画します。
高リスク群
再発リスクが高いと分類された患児には、化学療法、手術、幹細胞移植、放射線治療および免疫療法を組み合わせた強力な治療が必要です。進行が早い性質を持つ腫瘍細胞が他の部位への転移巣のいずれかがあると、高リスク群に分類されます。高リスク群に対する治療効果は低リスク群や中間リスク群に比べると著しく劣るため、最良の治療と言われている治療に関しても問題があります。
高リスク群の患児には以下のことが非常に重要です。
- 神経芽腫の診療経験が豊富な専門医によってきちんと診断が行われること
- 高リスク群神経芽腫の症例の経験がある医療機関で治療を受けること
高リスク群の治療計画書(プロトコール)の大多数では、以下のような組み合わせで治療を行います。
寛解導入のための化学療法:
原発巣と全ての転移巣(身体の他部位へ広がった腫瘍細胞)を縮小するために、4~6コースの多剤併用化学療法が最初に行われます。また、それぞれの薬剤や投与量は適宜変更されます。
手術(できる限り腫瘍を取り除くため):
寛解導入療法の後で行います。
幹細胞移植を含む持続療法:
高リスク群神経芽腫の標準治療では超大量化学療法の後に自己由来の血液幹細胞移植(自家造血幹細胞移植)を行います。この治療は、以下のような過程で行われます。
- 患児から幹細胞を集め、後で使うために保存しておきます。これは通常、寛解導入療法の間に行います。
- 残っている全ての腫瘍細胞を除去するために超大量化学療法を実施します。
- 化学療法や放射線治療によって破壊された骨髄を回復するために、あらかじめ集めておいた幹細胞を患者に注入します。
一部の症例では、この過程をもう一度繰り返して、別の抗がん剤の組み合わせによる超大量化学療法と2回目の幹細胞移植を行います。幹細胞移植では、自己由来(患者自身の)骨髄細胞や同種(適合するドナーの)骨髄細胞を使用するよりも自己由来の末梢血幹細胞を使用する方が望ましいと言われています。末梢血幹細胞を使用する方が幹細胞がより速く生着するか、または免疫機能がより速く回復するように作用することが研究で明らかになりました。さらに、腫瘍細胞が混じるリスクもより少ないです。しかしながら、患児本人の幹細胞が血液から採取できない場合には、末梢血幹細胞ではなく骨髄細胞を使用しても問題はありません。
放射線治療:
原発腫瘍の部位に対して行われます。腫瘍が完全に切除されたとしても、非常に少量の(顕微鏡レベルの)腫瘍が残っていることがあります。
主治医は、他の治療に完全には反応しない転移性の病巣部位に対しても放射線治療を薦めます。
維持療法(持続療法の後で行う):
高リスク群神経芽腫の患児の多くが再発を経験するので、医師は抗がん剤を追加投与し、持続療法の後にまだ残っている少量の腫瘍細胞の除去や腫瘍の縮小を目指した治療を行います。これらの治療は、未熟な腫瘍細胞を分化成熟させたり、患児の免疫系を強化したりすることで、典型的な化学療法とは異なる作用をします。
米国では現在、高リスク群神経芽腫の患児に対して、以下のような治療が行われています。(※訳注:2012年3月末現在、日本では下記の「13cisレチノイン酸」や「MAB ch14.18」は神経芽腫の治療薬として認可されておりません。)
- 13cisレチノイン酸(イソトレチノイン):経口(※訳注:内服)レチノイン酸が、急速に分裂する未熟な腫瘍細胞を成熟した神経細胞へと変える(分化と呼ばれます)ことが発見されました。
- モノクローナル抗体(MoAB)療法:モノクローナル抗体は、抗原となる腫瘍細胞に結合して単独で腫瘍細胞を破壊することができ、また、直接がん細胞を攻撃して破壊する抗がん剤と組み合わせることもできます。(※訳注:モノクローナル抗体は人工的に作られた抗体(免疫グロブリン)分子で、ある一つの抗原に対して働く特異的な性質を持っています。)高リスク群神経芽腫の患児の治療に使用されるモノクローナル抗体(※訳注:「ch14.18」)は、神経芽腫の細胞の表面にある「GD-2」に対して働きます。
- サイトカイン:感染やがんに対する身体の自然な免疫反応を強化することができる物質です。
- コロニー刺激因子:がん細胞を破壊する血球の産生を刺激する物質です。
高リスク神経芽腫の患児は、維持療法の終了後、腫瘍の再発がないかどうかを確認するために注意深く経過観察が行われます。数年後に現れるかもしれない副作用(※訳注:晩期合併症)に対処するためにも、長期間にわたって患児を経過観察します。
オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群(OMA)
神経芽腫を発症する患児の約2~4%は、さらに「OMA」と呼ばれる稀な神経性の症候群を合併しています。OMAの患児は、歩行障害とバランス障害(運動失調)、眼球の異常運動(オプソクローヌス)、特に足や脚におこる痙攣(ミオクローヌス)などの症状が起こります。OMAの原因は完全には解明されていませんが、がんを攻撃する自己抗体(腫瘍とたたかうタンパク質)が何かの理由で脳や中枢神経系を攻撃すると生じます。OMAは通常、あまり進行性ではない神経芽腫と関連があります。
OMAと神経芽腫を合併している患児には、うまく組み合わせた治療を行わなければなりません。通常、これらの患児は低リスク群に分類されるので、低リスク群神経芽腫に対する標準治療に加えて以下のような治療を受けることになります。
- ステロイド剤(副腎皮質刺激ホルモンかプレドニゾンのいずれか)による治療
- ガンマグロブリンの静注
- 化学療法:化学療法が長期的な神経障害を減少させることが研究で示唆されています。1種類の抗がん剤「シクロフォスファミド」の低用量投与だけを推奨する医師もいます。
再発の可能性
再発するかもしれない患児の数を正確に表すことは難しいことです。しかしながら、過去の経験からは高リスク神経芽腫の患児の50~60%が再発するであろうと考えられています。中間リスク群または低リスク群の神経芽腫の患児において再発が起こるのは症例の5~15%のみです。最終的に神経芽腫が再発する場合、通常は治療の終了から2年以内に起こります。再発の可能性は治療が終わってからの時間が経過するほど減っていきます。治療終了から5年以上経った後で再発が起こることは稀です。
神経芽腫の原因
何が神経芽腫を引き起こすのかはまだわかっていません。唯一わかっていることは、米国では東欧系白人の赤ちゃんはアフリカ系の赤ちゃんよりも神経芽腫を発症しやすい傾向にあるということです。しかしながら、以前は東欧系白人とアフリカ系の子どもが神経芽腫を発症する件数は同じでした。
いくつかの研究がその手掛かりと思われることを見つけましたが、後の研究でそれらは確認できませんでした。複数の研究が神経芽腫のリスクと関連のあることを見つけたとしても、実際に神経芽腫を引き起こす原因であると結論づけるためには、もっと詳しい方法で確かめる必要があるのです。
臨床研究(臨床試験)
米国では、がんの患児の大部分が臨床研究(臨床試験)に参加しています。このような参加率の高さは小児がんの治癒率を改善するのに不可欠です。 研究者は、治療法を改善し、かつ、がんの性格とその原因について理解を深めるために様々な研究を計画します。臨床試験は慎重に審査され、誰でも登録できるようになる前に正式な科学的手順を経て承認されなければなりません。登録中の臨床試験で、お子さんに“適格性がある”場合には、参加するように依頼されるかもしれません。複数の研究に参加するように依頼されることもあります。
特定の研究への適格性があるかどうかは、年齢、がんの部位、病気の広がりやその他の情報によって判断されます。通常、科学的に有効な研究を行うために研究者は研究対象者が的確かどうか厳密に調べなければなりません。さらに研究者は研究の間、厳密に同じ制約に従わなければなりません。
患児に複数の研究(臨床試験)への適格性がある場合、主治医はそのことについてインフォームド・コンセントのための面談(カンファランスと呼びます)を開いて親御さんと話し合います。親御さんがお子さんを研究に参加させたいと思っているか否かに関係なく、主治医は参加することによる潜在的なリスクや、親御さんが決断するために必要なその他の情報について説明してくれます。研究に参加するかどうかをいつでも選択することができます。
お子さんを研究に参加させることを選んだ場合、主治医はその研究の結果からどのような情報を得ることができるのかを説明します。研究の最終的な結果は、一般の方および他の研究者に知らせるために公表されます。どのような研究においても個人が特定されるような情報は公表されません。
様々な種類の研究について詳しく知るためには、このウェブサイトの臨床研究(臨床試験)の項目を参照してください。
米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月