軟部肉腫の治療
INDEX
軟部肉腫の治療は腫瘍の部位に左右されるため、患児によって異なります。
治療は、小さな切開手術で済む場合もあれば、広範囲にわたる大きな手術と強力な化学療法を行う場合、放射線治療を併用する場合と併用しない場合など、様々な方法があります。治療コースは、腫瘍の種類や悪性度(腫瘍がどの程度速く成長するかを示す病理組織学的な所見(※訳注:細胞分裂像や細胞の異型性で判断されます))、腫瘍の進行度(大きさや病期)などで決まります。悪性度が低く、手術で完全に切除できる小さい腫瘍に対してはあまり積極的な治療は行いません。
より大きくて、他の部位まで転移しているような悪性度の高い肉腫に対しては、化学療法や放射線治療を併用する積極的な治療を行います。
デスモイド腫瘍
腕や脚によくできる腫瘍ですが、他の部位にも発生します。ガードナー症候群および家族性大腸ポリポーシス(※訳注:いずれも遺伝性疾患)の患児はデスモイド腫瘍を発症するリスクが通常よりも高いです。
症状: 無痛性のゆっくり成長するしこりが見つかることが多いです。
治療: 手術が第一選択の治療です。腫瘍を完全に切除できないか、再発した場合には他の治療法を考えます。局所再発を抑えるために放射線治療が併用される場合もあります。
予後: 回復の可能性は、手術で腫瘍を完全に切除できた場合には大変良好です。再発リスクが高いのは、幼少時に診断された場合、病理組織学的所見に進行しやすい特徴がみられる場合、手術で腫瘍を完全に取り除けなかった場合、基礎疾患にガードナー症候群または家族性大腸ポリポーシスがある場合などです。この腫瘍の患児は、APC遺伝子の特異的な突然変異について調べてもらうことをお勧めします。また、デスモイド腫瘍の患児の一部は結腸癌の検査を受ける必要があります(※訳注:APC遺伝子は、がん化する危険性が高い家族性大腸ポリポーシスの責任遺伝子です)。
線維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)
DSRCTは希少かつ非常に進行が速い腫瘍です。この腫瘍は、ほとんどが腹腔内に発生しますが、他の部位にも発生します。リンパ節および腹腔の内側に局所的に広がりますが、肺、肝臓、骨に転移することがあります。
症状: 原発部位と診断時の進行度によって症状が異なります。腹部に腫瘍ができた場合には腹部が大きくなることが多く、痛みや時には嘔吐や体重減少も伴います。
治療: DSRCTの治療には化学療法、放射線治療、手術を行いますが、腫瘍を全て取り除くための手術が特に重要です。腫瘍を小さくしておくために、手術の前に化学療法を行う場合もあります。
予後: DSRCTは全体的に予後が良くありません。診断後の5年生存率は20%未満です。手術で腫瘍を全て取り除くことができれば、克服できる可能性が高くなります。
悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)
この腫瘍は神経に沿って発生し、通常は腕や脚の末端に発生しますが、腹部、頭頚部などに発生する場合もあります。神経繊維腫症と呼ばれる遺伝性疾患と関係している可能性があります。お子さんがこのような遺伝性疾患であるかどうかは主治医が診断します。
症状: 症状は腫瘍の原発部位によって異なりますが、よくあるのは痛みを伴いながら大きくなるしこりや感覚の変化などです。
治療: 治療は腫瘍の大きさと悪性度(腫瘍がどれほど速く成長するか示す病理組織学的所見)によって異なります。小さくて悪性度が低い(それほど進行性ではない)腫瘍は、通常は手術だけで治療可能です。大きくて悪性度が高い(より進行性の)腫瘍には、手術に加えて放射線治療と化学療法を併用した治療が必要です。
予後: 小さくて悪性度の低いMPNSTは、予後が非常に良好です。大きくて悪性度が高いMPNSTの予後も一般的には良好ですが、このような症例については放射線治療や化学療法を併用する追加治療が必要となります。
ラブドイド腫瘍
これは希少かつ非常に進行が速い腫瘍で、幼児に発症する傾向があります。最も多い原発部位は腎臓と脳です。積極的な治療がしばしば行われますが、ほとんどのラブドイド腫瘍はこうした治療の努力にもかかわらず身体の他部位に転移します。
滑膜肉腫
この腫瘍は通常、脚の関節の近くで発生しますが、肺などの部位に生じることもあります。腫瘍細胞において、1つの染色体の一部が離れて他の染色体に付く特異な遺伝子異常(※訳注:染色体転座と呼びます)がしばしば見つかります。
症状: よくある症状は、膝の近くでだんだん大きくなっていく痛みのないしこりです。
治療: ほとんどの滑膜肉腫は手術、化学療法、放射線治療を組み合わせて治療します。手術で腫瘍を完全に取り除くことが重要です。治療計画書(プロトコール)に放射線治療や化学療法が追加されたことによって滑膜肉腫の患児の生存率が改善しました。
結果: 手術、化学療法、放射線治療を組み合わせて行う場合、米国では70%以上の症例で長期生存が期待できます。
臨床研究(臨床試験)
米国では、がんの患児の大部分が臨床研究(臨床試験)に参加しています。このような参加率の高さは小児がんの治癒率を改善するのに不可欠です。 研究者は、治療法を改善し、かつ、がんの性格とその原因について理解を深めるために様々な研究を計画します。臨床試験は慎重に審査され、誰でも登録できるようになる前に正式な科学的手順を経て承認されなければなりません。登録中の臨床試験で、お子さんに“適格性がある”場合には、参加するように依頼されるかもしれません。複数の研究に参加するように依頼されることもあります。
特定の研究への適格性があるかどうかは、年齢、がんの部位、病気の広がりやその他の情報によって判断されます。通常、科学的に有効な研究を行うために研究者は研究対象者が的確かどうか厳密に調べなければなりません。さらに研究者は研究の間、厳密に同じ制約に従わなければなりません。
患児に複数の研究(臨床試験)への適格性がある場合、主治医はそのことについてインフォームド・コンセントのための面談(カンファランスと呼びます)を開いて親御さんと話し合います。親御さんがお子さんを研究に参加させたいと思っているか否かに関係なく、主治医は参加することによる潜在的なリスクや、親御さんが決断するために必要なその他の情報について説明してくれます。研究に参加するかどうかをいつでも選択することができます。
お子さんを研究に参加させることを選んだ場合、主治医はその研究の結果からどのような情報を得ることができるのかを説明します。研究の最終的な結果は、一般の方および他の研究者に知らせるために公表されます。どのような研究においても個人が特定されるような情報は公表されません。
様々な種類の研究について詳しく知るためには、このウェブサイトの臨床研究(臨床試験)の項目を参照してください。
米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月