治療終了後1年以上
INDEX
治療終了の日の1年後は、多くのご家族にとって意義深い、いわば「記念日」です。この頃になると、血球数や免疫系が回復し、髪も再び生えてきます。通常、子どもはより多くのエネルギーがあるため、「今までの遅れを取り戻す」かのような成長をします。多くのお子さんにはがんの治療をしたという身体的な形跡はもはやありません。しかし、がんの治療が原因で起こる長期的な合併症がこの頃になって現れる場合もあります。
受診
治療が終了して2年目に入ると、受診の目的が少し変わってきます。また、受診の間隔が開いてきます。治療チームは、がんの再発徴候が全くないかどうか、お子さんの経過観察を続けています。血球数の確認が行われ、固形がんの治療を受けた患児は寛解(かんかい)が続いていることを確認するために画像検査を受けます。治療チームはお子さんを健康な状態に戻すことに専念します。お子さん独自の長期フォローアップの計画については担当医と相談してください。米国では治療終了から2~5年経つと、長期フォローアップ専門のクリニックへ移って経過観察が行われる場合があります。
がんについての本人への説明
成長と共に病気や治療に関して本人が必要とする情報量が増えてきます。多くの場合、お子さんは幼かったので治療していた時期のことをあまり覚えていません。そのため親御さんは、病気に関する情報をなるべく教えないようにしてわが子を守りたいという気持ちになります。しかし、お子さんとの間にしっかりとしたコミュニケーションがあれば、元気なのになぜ病院を予約して受診する必要があるのかについて納得させることが可能になります。
学校で生じる問題
治療が終わった後、学校生活における問題は長い間表面化しないかもしれません。もし学習上の問題があれば、医師、治療チーム、スクールカウンセラーなどの専門家、お子さんが通う学校の関係者などと話し合うべきです。
脳や脊髄へがんが広がるのを防いだり脳や脊髄のがんをコントロールしたりする治療は、お子さんの記憶や学習能力に影響を及ぼします。お子さんがこの種の治療を受けた場合には、担任、校長、スクールカウンセラー等に知らせてください。中枢神経系に対する治療を受けたお子さんは学習に集中するのが難しいことを一部の親御さんや学校の先生が報告しています。脳は非常に複雑な構造をしており、幼年期、思春期、青年期の間を通して成長し発達し続けます。神経心理的な検査を受けると、学習面における能力と弱点を診断し、かつ学校がお子さんのために特別な支援を行って学習能力を可能な限り引き出すのに役立ちます。一般のスクールカウンセラーは学習面で問題を抱える子どもを評価する専門家ではありますが、実際にがんの治療を受けた子どもに巡り会うことは滅多にありません。したがって、お子さんが治療終了後に学習面で問題を抱えている場合には、小児がんの子どもを担当した経験を持つ心理学者による診断を受けることを推奨します。
以下のような場合は、学習面での問題の発生リスクが高まることがあります。
- がんと診断される以前から学習面で問題を抱えていた場合
- 頻繁に、あるいは長期間にわたって欠席した場合
- 聴力や視力に影響がある治療を受けた場合
- 治療によって身体的な制約を負うことになった場合
- 放射線治療あるいは髄注化学療法(脳脊髄液へ直接抗がん剤を投与すること)などの脳や脊髄への治療を受けた場合
健康的な体重の維持
がんおよびがん治療が及ぼす食欲や運動への影響は、その子によって異なります。目標は、お子さんが健康な状態を維持し、学校活動や遊び、仕事などをうまく行えるように助けることです。治療がいったん終わると、ほとんどの子どもの体重は増え始め、親としてこれは非常に心強いことです。しかしながら、一部の子どもの体重は不健康な割合で増えます。またその一方で、体重が全く増えずに苦労する子どももいます。お子さんが体重や栄養上の問題を抱えている場合には、どんな問題も治療チームと話し合ってください。栄養士と話し合うことも役立ちます。健康な食事と運動は、がん治療を受けてきた子どもにとって以下のようなたくさんの利点があります。
- がんやがん治療によって損傷を受けた組織や器官が治るのを助ける
- お子さんの体力と活力を生み出す
- 特定の種類の成人のがんやその他の生活習慣病になるリスクを減らす
- ストレスを減らし、幸福感を増加させる
健康な食事と運動を組み合わせることが大切です。一般的に健康な生活習慣とは、喫煙をせず、低脂肪で繊維の多い食事をし、定期的に運動しながら、過度のアルコール摂取を控えることです。
屋外における注意事項
小児や10代の若者には、毎日の習慣として屋外での運動をいくつか取り入れるように奨励するべきですが、曇った日や靄(もや)のかかった日にも皮膚は日光を浴びているので、忘れずに保護してください。具体的には以下の点に気をつけてください。
- 衣服で肌を被うか、紫外線防御指数が高い(SPF35以上の)日焼け止めを使用しましょう。
- 周りに砂、雪、コンクリート、水のある場所および標高が高い場所は全て日光による悪影響のリスクが高まります。これらの環境においては、皮膚を保護するために特に注意をしてください。
- 日焼けをすることはあきらめましょう。(日焼けサロンの利用も避けましょう。)
- 日光が最も強くなる午前10時から午後2時にかけての時間帯は、屋外での活動を避けましょう。
- 屋外での活動は朝方または夕方の時間帯に計画しましょう。
- 屋外では、特に泳ぐ場合には、数時間おきに日焼け止めを塗り直しましょう。
骨髄移植を受けた場合
骨髄移植などの幹細胞移植を受けたお子さんは回復の仕方が若干異なります。これは幹細胞移植の後、十分な免疫機能が戻るのにさらに時間がかかるためです。回復期間は以下の条件によって異なります。
- 受けた移植の種類(例えば、ドナーが家族だったのか、血縁関係のないドナーだったのか)
- 新しい骨髄がどれくらいで機能し始めたか
- 免疫を抑えるために特別な薬を服用しなければならなかったかどうか
- 移植片対宿主病(GVHD)を発症したかどうか
骨髄移植の前処置として放射線の全身照射を受けた患児には、治療が終わるまで予測できなかった合併症が現れてくることがあります。この治療は非常に強く、回復までに長期間かかるので、お子さんはかなり長い間治療を受けることになります。お子さんが通常の活動が安全にできるようになったら、治療チームが教えてくれます。
フォローアップ受診の期間
フォローアップ受診の期間の長さは、受けた治療とお子さんに晩期合併症があるかどうかによって異なります。米国小児がん研究グループ(Children’s Oncology Group、略称:COG)は、小児がん経験者が成人になるまで経過観察を行うことを推奨しています。推奨されるフォローアップ受診の内容は最新の医学知識に基づいており、時間の経過と共に変わっていきます。検査には血液検査や画像検査などが含まれます。必要な検査とフォローアップの内容については担当医が説明してくれます。
長期フォローアップ受診への移行
ここで言う「移行」とは、小児がんの治療を担当した専門の治療チームから、長期フォローアップ受診のためのクリニックや小児がん経験者として受診するかかりつけ医へ転医することを意味します。
長期フォローアップの受診先は、がんの治療を受けた医療施設によって異なります。治療終了後2~5年の間に別のクリニックや病院に移る場合もありますが、最初の診断の後、無期限で診察を続ける施設もあります。また、米国には、成人した小児がん経験者のための特別なクリニックを併設している施設もあります。担当医は、お子さんが転医しても良いかどうかなどについて話し合い、できるだけスムーズに移行できるように支援してくれます。
移行の準備をするために、親御さんや担当医は以下のような支援をしなければなりません。
- 自分のがんと今までに受けた治療について理解するようにお子さんを励ますこと。
- なぜフォローアップのための受診が必要かを説明すること。
- わからないことは質問するようにお子さんを励ますこと。
- お子さんの治療内容とフォローアップの計画についてのサマリーを書くように頼むこと。